
【中編】日本代表W杯への旅路ー2006~2014年、敗北からの学び
前回大会の自国開催ではベスト8の快挙を成し遂げた日本代表。さらにその上を目指し世界に挑み続ける。2006~2014年大会で繰り広げられた数々の名場面は、サッカーファンの心に深く感動を与えた。※トップ画像出典/Pixabay(トップ画像はイメージです)

ジーコ・ジャパンが駆け抜けたベスト4への挑戦
“サッカーの神様”として知られているジーコを監督に迎え、日本サッカー史で随一の実力を誇るチーム構成でベスト4を目指した日本代表。黄金世代が集結したドイツ大会でどのような名場面が生まれたのか。
6月12日、初戦の相手はグループ突破のライバル、オーストラリア。日本サポーターの期待を背負って迎えた初戦。前半26分にゲームは動いた。右サイドからの中村のクロスが、相手GKシュウォルツァーの頭上を超えてそのままネットに吸い込まれる。ラッキーな形で日本が先制し、1点リードという理想的な形で前半を折り返す。後半、互いにチャンスをものにできないまま、時間が過ぎていく。日本リードのまま試合終了かと思われた残り10分、日本の誰もが信じがたい光景を目にする。84分、ケーヒルに同点ゴールを許すと、89分にも再びケーヒル、そしてロスタイムにはアロイージにトドメの一撃を浴び、まさかの3失点。日本の初戦は、残り10分の崩壊という悲劇の幕開けに終わった。
6月18日の第2戦。相手はクロアチア。この試合に敗れれば、グループリーグ敗退が決まる崖っぷちの一戦だった。全員に気持ちは入っているが、まとまりに欠けているようにも見えた。前半21分、日本はキャプテン宮本の不用意なファウルによりPKを献上。緊張が走るなか、1人冷静だったのがGK川口だった。スルナの鋭いシュートを完璧な読みと反応でセーブ。この瞬間、試合の流れが日本に引き寄せられると思ったが、得点には変えられなかった。その象徴が後半6分のシーンだろう。この日一番のビッグチャンス。加地の完璧なクロスに合わせたのは柳沢。ゴールライン5m手前で放ったシュートは、まるで意思を持っているかのようにゴールから大きく外れた。試合はスコアレスドロー。勝ちきるための『何か』が欠けている一戦だった。
そして迎えた6月22日、グループリーグ最終戦。2点差以上での勝利がノックアウトステージへ進む条件。相手は前回大会王者のブラジル。それでも日本代表は、誇りを持って立ち向かった。前半34分、三都主のスルーパスに抜け出した玉田が、左足で完璧なコースへシュート。王者ブラジルのネットを揺らす。誰も予想していなかった日本の先制ゴール。ところが、このゴールで王者は目覚めた。エース・ロナウドの同点ゴールから、ジュニーニョ、ジウベルト、再びロナウドと、日本は4失点をくらった。試合運び、個の力、メンタル、すべての面で差を見せつけられた。試合終了後、中田英寿がピッチから動けずにいた姿は、敗戦以上に多くを物語っていた。
南アフリカで見せた、進化するサムライブルーの姿
南アフリカ大会前は、日本の完成度の低さからグループステージ突破どころか1勝すら期待されていなかった。大会直前の親善試合で4連敗。サポーターから岡田監督への「解任著名」が提出される事態が起こるほどだった。だが岡田監督はその逆風をものともせず、1トップに本田、守備重視に布陣を変更。この判断が、やがて歓喜を生む転機となる。
迎えた6月14日の初戦、相手はカメルーン。前半39分、前半39分、松井大輔が右サイドを突破してクロスを上げると、大久保嘉人が競り合い、こぼれたボールを本田が冷静に押し込んで先制。このゴールが決勝点となり、日本は1-0で勝利。W杯での初戦勝利という快挙を達成し、世間の予想を覆す勢いを手にした。初戦を勝利で飾った日本は、第2戦で強豪オランダと対戦。守備重視のフォーメーションは90分通して崩れることはなかったが、後半8分、オランダの10番・スナイデルが放った強烈なシュートは、GK川島の手をはじきそのままゴールへと吸い込まれ失点。終盤には、岡崎の抜け出しから同点のチャンスを作るなど、グループリーグ突破の可能性を感じさせた戦いだった。
6月24日、グループ最終戦。相手はデンマーク、勝てばノックアウトステージ進出が決まる。前半17分、本田が放ったフリーキックは、まるで重力を無視したような無回転シュート。ボールは伸びながらゴール右隅に突き刺さり、スタジアムがどよめいた。29分にも、遠藤の美しいカーブを描いたフリーキックがゴール左へ決まり、2-0。PKで1点を返されたものの、86分には、本田が相手を引き付けてからの絶妙なパスを岡崎が押し込み、3-1。見事グループリーグ突破を果たした日本代表の堂々たる戦いに、多くのファンが歓喜に包まれ、清々しい朝を迎えたことだろう。
下馬評を覆した日本は、ノックアウトステージへ進出。1回戦の相手は、南米の堅守・パラグアイ。90分+延長30分の120分間、日本は集中力を切らさず、0-0でPK戦へ突入した。日本の3人目、駒野のシュートは無慚にもクロスバーに嫌われた。パラグアイは全員成功。日本は、またもベスト16で敗退。多くの国が「組織力と規律」で戦うサッカーに驚かされたのではないだろうか。選手たちが流す涙には、南アフリカの地で戦った誇りと魂が映し出されているようだった。
背水の陣で挑んだ日本、世界の壁に阻まれる
アルベルト・ザッケローニ監督の下、日本代表は本田(ACミラン)、香川(マンチェスター・U)、長友(インテル)ら欧州ビッグクラブで活躍する選手たちが名を連ね、史上最強の日本代表として新たな夢を追いかける。
6月14日、初戦の相手はアフリカの強豪・コートジボワール。キックオフを目前に、初戦白星への期待感が高まっていく。前半16分、日本の4番・本田が静寂を切り裂いた。左サイドの連携から、ペナルティーエリアでパスを受けた本田。迷いなく左足を振り抜き、ゴール左上に突き刺し先制ゴール。しかし、61分にコートジボワールの英雄ドログバが投入されると、スタジアムのボルテージが一気に跳ね上がった。そして64分、右サイドバックのオーリエからのクロスにウィルフリードが頭で合わせて同点弾を決める。さらに2分後、再びオーリエの正確なクロスにジェルビーニョが飛び込んでゴール。わずか2分間で逆転されるという悪夢が日本代表を襲ったのだ。日本は反撃の形すら作れないまま試合終了。世界の壁を痛感させられた敗戦となった。
6月19日第2戦、相手はギリシャ。初戦を落とした日本にとって、絶対勝利が求められる一戦だ。スタジアムには多くの日本人サポーターが詰めかけ、選手たちの背中を後押しした。前半から日本がボールを支配し、攻撃の主導権を握る。しかし、ギリシャの堅固な守備を前に、ゴールがなかなか奪えない。前半終了間際、ギリシャのカツラニスが2枚目のイエローカードで退場。日本は数的優位に立ったが、ギリシャの守備を崩すことができない。遠藤や香川を投入し、攻撃の活性化を図ったが、効果的な形を作ることはできなかった。シュート数は16本、ボール支配率は68%と、数字上は日本が圧倒していたが、勝ち点3を獲得できなかった。攻撃の停滞が目立ったこの試合は、日本代表にとって大きな課題を突きつけるものとなった。
6月24日、第3戦。1分1敗で後がない日本代表は、勝利が絶対条件。まさに『背水の陣』である。しかし、前半17分、アドリアン・ラモスが倒されて得たPKを豪快に決められ、日本は追いかける展開に。前半終了間際のアディショナルタイムに突如として希望が訪れた。右サイドでボールを受けた本田が、ゴール前へクロスを送る。そこへ飛び込んできたのは岡崎だった。DFと競り合いながら、身体を投げ出すようなダイビングヘッドでネットを揺らす。「まだ、終わっていない」そう思わせる、魂のゴールは日本に勇気を与えた。後半、ハメス・ロドリゲスが途中出場。すると55分、彼の絶妙なスルーパスを受けたジャクソン・マルティネスが巧みにかわしてゴール。 82分には再び同じ形からマルティネス、90分にはハメス自身が日本守備陣をひとり、またひとりと外しながら日本の守備を子ども扱いするような芸術的ゴールを決める。日本は1-4で敗れ、グループリーグ敗退が決定した。希望を繋いだ岡崎のゴールと後半に見せつけられた世界の差は、今なお記憶に残っている名場面である。