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「究極の自己満足ですかね」日本代表との二刀流・鈴木潤一が五輪追加種目「ラクロス」を愛する理由とは

2028年のロサンゼルスオリンピックでは、5つの競技が追加種目に選ばれた。そのうちの1つが「ラクロス」だ。日本ではまだマイナースポーツだが、それを愛してやまない男がいる。サラリーマンと選手の二刀流で世界に挑戦する、日本代表の鈴木潤一。平日は朝錬の後に出社、終業後にも自主練習と厳しいスケジュールを過ごす。それでも鈴木は、弱音を吐くどころかその環境を楽しんでいる。GET SPORTS「鈴木潤一 ラクロス愛のその先に」では、彼のラクロス愛の源に迫っている。※トップ画像出典/Getty Images

Icon %e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%82%a2%e3%83%bc%e3%83%88%e3%83%af%e3%83%bc%e3%82%af 1 キングギア編集部 エンタメ班 | 2024/12/28

世界3位に輝いた過去も。日本ラクロスの現在地

2022年、ラクロス日本代表は世界大会で銅メダルを獲得した。その立役者が屈指の点取り屋、鈴木潤一だ。鈴木は当時を「ラクロスを10年プレーしてきましたが、最高の瞬間でした。幸せ過ぎて涙が出ましたね」と笑顔で振り返った。地上最速の格闘球技とも言われる競技で、日本は世界的に見ても強豪国に位置している。それでも、ラクロスが国内で置かれる環境は厳しい。鈴木の所属するチームもそうだ。専用グラウンドはなく、地域の少年サッカーチームがプレーするような、公共の共用グラウンドを点々とする毎日。ゴールも選手が保管、持参している。ラクロスは2022年12月時点で、国内競技人口が1万3000人ほどで、学生が大半。鈴木のように社会人で続けているのは2000人程度しかいない。

サラリーマンとラクロス日本代表ー鈴木が挑む二刀流の道

鈴木の平日のスケジュールは特に厳しい。朝6時半に母校の早稲田大学のグラウンドに姿を現すと、学生に交じって練習に参加する。ともにプレーするだけでなく、指導も行っている。「コーチとして、学生にスキルを還元していく役割ですね。9割は自分のためです。上手くなりたいので」鈴木が所属チームで練習できるのは、週2日だけ。平日は母校で早朝の2時間、みっちりと練習している。

8時30分にグラウンドを離れると、スーツに着替えて社会人の姿にチェンジ。鈴木は世界的な企業で企画担当を行うサラリーマンとしての一面も持つ。「仕事は朝9時から始まって、夜の19時までですね。忙しさによっては始動時間が早まったり、終わりが遅くなったりすることもあります」と説明する通り、ラクロスとサラリーマンの二刀流で生活を送っている。

仕事後の21時からは練習着に着替え、黙々と自主練習に励む。「平日はほぼ毎日やりますね」と、自分に厳しい。だが、それだけでは終わらない。その後はジムに移動し、筋力トレーニングで体をいじめぬく。ジムの費用は自己負担だ。「結構、自費で出してますね。ジムに行くのもそうですけど、何かしようと思ったらサラリーマンで稼いだお金をそっちに流す感じですね」と鈴木は語る。実は鈴木は、ラクロス中心の生活を送るために会社を転職していた。「転職先の部署にも『ラクロスがしたい』と先に伝えてたほどです」時計の針は23時を過ぎる。なぜそこまでストイックになれるのか。「僕らはお金をもらっていません。何でかって言われたら、究極の自己満足ですかね」ラクロスを愛しているから、ここまでのめり込むことができる。

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Source: Getty Images

ラクロスをオリンピック種目に “脱マイナースポーツ”への願い

オリンピックの追加種目には、どうしても選ばれて欲しかった。「オリンピック種目になって、自分が日本代表として活躍してメダルを獲れたら、それはたまらないですよね。注目も集まるでしょうし、ラクロスを見る人や知る子どもたちが増えると思う」そうすれば競技人口が増えて、愛するラクロスがよりメジャーなスポーツになる。それも1つの夢だった。

ある日、鈴木は小学生チームの指導を行っていた。身振り手振りで、年下に対して丁寧な口調で上達する方法を伝えている。「子どもたちがラクロスをプレーして高いスキルになっていくのは、世界に勝つために必須のこと。彼らと一緒に世界を驚かせたいですね」実際に参加した子どもは「オリンピック選手はかっこいい。自分もそうなれたらうれしい」と笑顔で話した。鈴木の熱意が、着実にラクロスを浸透させている。

亡き父に最高の報告をしたいーメダル獲得を目指す鈴木の挑戦

オリンピック追加種目発表まで5日。自宅を訪れると、父の遺影に手を合わせる鈴木の姿があった。「(発表1ヶ月前の)9月に他界しました。(がんの)末期で非常につらい状況だったと思います。ただ、最後まで僕の試合をほぼ全部見に来てくれました。自慢の父です」鈴木の父は、誰よりも鈴木の活躍を喜んでくれていた。五輪追加種目に決定した暁には「一番に報告したいですね。自分が試合に出られるとなれば、その時も。いい結果を残せたら、最高の報告が出来ますしね」

10月16日、インドで行われた国際オリンピック委員会の総会で、2028年ロサンゼルスオリンピックの追加種目が決定した。その中に、ラクロスの文字もあった。それを確認した鈴木は何度もうなずいた。「うれしいですね。ラクロスが“大学から始めるスポーツ”から“メジャースポーツ”への一歩を踏み出せたと感じました」と、とびきりの笑顔で白い歯をみせた。「一番喜んでいるのはお父さんだと思います。2028年、いい報告ができるように努力をしたいと思っています。(父の元へ)届くように、メダルを獲りたいです」

追加種目決定から5日。発表後初めての対外試合に挑む鈴木の姿があった。オリンピックという明確な目標が設定され、より一層プレーに迫力が増していた。「オリンピックでメダルを獲得できる機会があるなら、絶対に獲りに行きたいので。さらに時間を切り詰めようかと思います。そこには自己満足を超える何かがあるのかもしれないと思います」

究極の自己満足から、ラクロス界の躍進への一歩へ。鈴木潤一の挑戦は、まだ始まったばかりだ。


GET SPORTS『日本代表・鈴木潤一 ラクロス愛のその先に。開かれた未来への扉』

放送:2023年10月29日(日)
内容:激しく衝突し、相手を叩くことまでも許される“格闘球技”の異名を持つ競技、ラクロス。日本が去年、最高峰の国際大会で初のメダルを手にするなど旋風を巻き起こしてきた中で、今月、2028年ロサンゼルスで120年ぶりに五輪種目への復活が決まった。そんな吉報を心から待ちわびていた1人が、日本屈指の点取り屋・鈴木潤一、28歳。日本にはまだプロリーグもなければ、貯金をはたいてトレーニングに励む毎日…メジャースポーツとは程遠い厳しい環境の中で、本業とラクロスを両立させながら、「究極の自己満」と称するほどラクロスを愛し続ける先に待っているものとは。

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