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「純粋に楽しんでいる方が上手くいく」 FC町田ゼルビアを強豪クラブへと成長させた背景と経営の考えとは

独自の発想で町田ゼルビアから日本サッカー界に革新を起こす。サイバーエージェント社長の藤田晋が2022年12月、株式会社ゼルビアの社長に就任して以来、大規模補強や高校サッカーからの指揮官抜擢など、異例の戦略を重ねてきた。そして、わずか1年でJ2初優勝、J1初昇格に導いたキーマンの頭の中とは?※トップ画像出典/Getty Images

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「どうしてもやりたい」サッカー経営に着手した理由とは

全ては失敗から始まった。大企業サイバーエージェントの代表が、何故サッカークラブの経営に携わったのか。藤田は「実は20年近く前に東京ヴェルディの副社長をしていたんです。その時、うまくいかなかったんです」と振り返る。クラブはフロント、選手、スタッフが束にならなければ上手くいかないことを学んでいた。

その経験を活かしたかった。「サッカー(自体)が好きなのは、正直なところです。どうしてもやりたいと思ってました」と再挑戦のきっかけを待っていた。そんな時、同じくIT大手・楽天の社長でヴィッセル神戸の会長、三木谷浩史から「藤田くんも続け」と言葉をかけられた。再挑戦への道が始まった。

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Source: Getty Images

「自分たちで強くしていった方が面白い」“貧乏クラブ”買収の経緯

実はJ1有名クラブの親会社になる話もあった。それでも「自分たちで強くしていった方が面白い」と、大学時代に地元福井から上京してきた街、町田にあるサッカークラブを選んだ。

町田は1989年に創設され、その後は親会社を持たずに運営されてきた。地元企業に支えられながらも、懐状況は厳しかった。その時代を知るFWの中島裕希が「クラブハウスがない中で、自分たちで洗濯もやりながら。雨の日も濡れたまま、シャワーせずに帰ったりしましたね」と振り返る。GKの福井光輝は「人工芝が固すぎて、飛んでのセービングの練習はできませんでした。週に2回はトレーニングシューズで、スパイクは履かずに。履いちゃうと腰に負担がかかるので」と笑った。

2018年、そんな状況は一変する。サイバーエージェントが親会社となると、天然芝のグラウンドを整備。建築家で新国立競技場も手掛けた建築士・隈研吾が設計するクラブハウスもオープンし、環境は劇的に変わった。それらは全て、J1に昇格するためだったと藤田は話す。「J1に昇格しないと経営が黒字化する目途も見えない。『まずは昇格』を意識づけました」。選手たちのモチベーションアップを促したのだった。

「勝たないといけないのに優位性がない」高校サッカー監督抜擢の舞台裏

藤田の大胆な行動は、日本サッカー界に衝撃を与えた。青森山田高校を7度の日本一に導いた名将・黒田剛を監督に抜擢したのだ。高校サッカーの監督が、Jリーグ指導者を経験することなく指揮官に就任するのは史上初のことだ。「Jリーグは同じ監督があちこちのチームを回ります。勝たないといけないのに、優位性がないんです。未知の可能性でも、黒田監督に懸けるのが正解かなと判断しました」

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加えて黒田との話し合いでは「1年勝負」を目標に掲げた。「『高校サッカーから成功者はいない』とすごく説得されましたから。高校の監督が通用するかどうかは、1年目の評価で決まると思ったんです」。こうして23年のシーズン開幕前、J2最多の19人を補強する手段に出た。それでも藤田は「決断は一瞬でしたね」と、悩むことははなかったという。

この補強で入団し、後の2023年J2MVPを受賞。町田のエースストライカーにして、チームの核の存在であるFWエリキは、獲得予定になかった選手だった。「予算も超過していたんですけど、もう『獲ろう』となりました」と藤田は語る。このフットワークの軽さが、結果的に大躍進のきっかけとなった。

経営者として欠かせない“一瞬の判断力”の育て方とは

クラブ経営ではもちろん、企業の社長としても必要不可欠である「一瞬の判断力」はどう育てたのか。そう問われた藤田は、悩みながら口を開いた。「難しいですね。集中していると直感は間違えないので。複雑なものに答えを出すには、理屈を積み重ねるより、直観の方が正解に近いと思います」。自分の決断が全てなのだ。

加えて自らの性格を「負けず嫌い」と分析する。「どうせ負けるなら勝負して負けたいですし。何を言われようが、勝てば大絶賛ですからね」。この大胆さも、勝負師に欠かせないパーツなのだろう。

企業の社長とクラブの運営。二足のわらじを履く藤田だが、考え方は一緒だ。「最終的にマネタイズ(収益化)は頭に置かずにやってます。結果的に収益化できているので、サッカーもいずれそうなってくてるのかなと。純粋に楽しんでいる方が上手くいくんじゃないかって」。楽しむことが、結果につながると語った。

最後に、これからの野望を口にした。「東京のクラブで世界に出たいです。FC町田ゼルビアがACL(アジアチャンピオンズリーグ)で活躍して、アジア、日本のサッカーを魅力的なものだと発信して、放映権を海外に売ろうかなと」。その仕組みはもうできている。あとは日本のサッカーが強くなることだけだ。藤田は高い目標に挑み続ける。その挑戦とともに、町田ゼルビアも成長を続けていく。



『藤田晋×南原清隆~FC町田ゼルビア 飛躍の裏側~』より

配信日:2024年5月10日

※記事内の情報は放送当時の内容を元に編集して配信しています