
【後編】日本代表W杯への旅路ー2018~2022年、立ちはだかるベスト16の壁
2018年ロシアW杯、2022年カタールW杯。日本代表は2大会連続で世界を驚かせる歴史的勝利を重ね、ベスト16の舞台に立った。FIFAランキング3位のベルギーを最後まで苦しませた試合やドイツ、スペインといった優勝経験国を打ち破る金星など、進化と挑戦を繰り返した大会の名場面をグループステージから振り返ってみる。※トップ画像出典/Pixabay(トップ画像はイメージです)

2018年ロシアW杯、忘れられないロストフの悲劇
日本代表はグループリーグ初戦で南米の強豪コロンビアを撃破し、2大会ぶりのノックダウンステージ進出を果たした。ベスト16ではFIFAランキング3位のベルギー相手に2点を先行。しかし、残り10秒で失点してしまい、赤い悪魔の前に散った。
6月19日、ロシア大会初戦の相手は強豪コロンビア。開始早々、ペナルティエリア内で日本のシュートを相手DFが手で阻止したと判断され、一発退場のハプニングが起こる。このPKを香川が落ち着いて決め、日本が理想的な先制点を奪った。その後、直接FKから同点とされたが、後半の本田の絶妙なCKは味方と相手が入り混じるなか、大迫が見事に頭で流し込み勝ち越し。数的不利のコロンビアに日本は終始優勢を保ち、2-1で歴史的勝利を収めた。W杯でアジア勢が南米のチームを倒したのはこれが初の快挙であり、のちに『サランスクの奇跡』と称される。初戦の金星に、スタジアムは熱狂の渦となっていた。
6月24日のセネガル戦は、一進一退の撃ち合いになった。前半、相手のクロスボールをGK川島がはじくが、世界的FWマネが押し込み先制ゴールを許してしまう。セネガルの高い身体能力に翻弄されるが、34分柴崎の見事な配給から、乾の芸術的なコントロールシュートが突き刺さり同点に追く。後半にも乾のシュートがバーを叩いたり、大迫が決定的チャンスをものにできなかったりと日本は勝ち越しのチャンスを何度も逃した。セネガルは、サイド攻撃から一瞬の隙をつき、勝ち越しに成功。しかし、78分には途中出場の本田が執念の同点ゴールを奪う。本田はW杯3大会連続ゴールという偉業を達成した。日本は2-2の引き分けに持ち込み、勝ち点4でグループ首位へ。手に汗握る展開に、スタンドのサポーターたちは、生きた心地がしなかっただろう。
6月28日、グループリーグ最終戦。日本は勝てばもちろん、引き分けでも自力で決勝トーナメント進出が決まる状況。すでに敗退の決まっていたポーランドに対し、日本は前の2試合から先発6人を入れ替えた。しかし後半14分、ポーランドのフリーキックから痛恨の失点を喫し0-1にされる。一方、同時刻開催の他会場ではコロンビアがセネガルをリード。このまま行けば日本は敗れても辛くも2位通過できる…そんな状況下で西野監督が下した決断は、「攻めないこと」だった。観客席からは大ブーイング。終了のホイッスルが鳴り響くと、日本は敗戦にもかかわらずベンチから安堵の表情がこぼれていた。W杯でフェアプレーポイントによる順位決定が適用されたのは史上初の出来事。賛否両論のなか、この“静かな10分間”もまた劇的な勝負の駆け引きとして語り継がれている。
7月2日。日本代表は、W杯ノックアウトステージで優勝候補ベルギーと対峙した。アザール、デ・ブライネ、ルカクら黄金世代を擁する世界屈指の強豪に対し、日本は前半を0-0で凌ぎ、後半にドラマが待っていた。後半3分、原口元気がカウンターから右足を振り抜き先制。さらに7分後、乾貴士の無回転ミドルがクルトワの左手を抜けゴール左隅へ突き刺さる。日本の立て続けのゴールでまさかの2点リード。FIFAランキング3位の相手に、スタジアム全体が夢を見ているようだった。しかし、後半24分に1点を返されると、わずか5分後に再び失点。流れは一気にベルギーへ傾いた。そして迎えた後半アディショナルタイム、最後のワンプレーで日本のCK。勝利への望みを託した本田のキックはクルトワにキャッチされ、そこからすべてが一変する。ベルギーは迷わずカウンターに転じ、数秒後、シャドリがネットを揺らした。唖然とする選手、膝から崩れ落ちる選手、天を仰ぐ選手。日本サッカー史にとって歴史的瞬間となるベスト8は手のひらからすり抜けていった。のちに「ロストフの悲劇」と呼ばれ、今も多くのサッカーファンの胸に深く刻まれている。
2022年カタールW杯、死のグループを制したドーハの歓喜
「ドイツ、スペイン、そして日本」誰もが“死の組”と呼んだグループで、森保ジャパンは2つのW杯優勝国を撃破し、堂々の首位通過を果たした。グループリーグで見せた逆転劇。三苫の1ミリの奇跡と執念が、確かに日本サッカーの新章を切り開いた。
11月23日、カタール大会初戦の相手はかつての王者ドイツ。下馬評では圧倒的に不利と見られた日本だったが、誰も予想しなかった展開を迎える。前半8分、日本の前田がネットを揺らすもオフサイド判定。一方33分、守護神・権田のファウルで与えたPKをギュンドアンに沈められ、0-1で折り返す。後半、森保監督は切り札を投入。75分、途中出場の堂安が左足を振り抜き同点。さらに83分、途中出場の浅野が覚醒した。彼らしからぬ見事なトラップから、世界トップレベルのGKノイアーからゴールを奪い逆転に成功した。スタジアムは「信じられない!」という空気と歓喜が入り混じる。強豪相手の歴史的金星に『ドーハの歓喜』などと称された。
11月27日の第2戦はコスタリカ。初戦で強豪を撃破した日本は、FIFAランキングでは格下の相手に苦しめられる。この試合、日本はボールを支配して何度も攻め込むが、GKナバスを中心とする堅い守備を崩せない。逆に後半81分、最終ラインのクリアミスを突かれてコスタリカに痛恨の失点をプレゼント。相手のこの試合唯一となる枠内シュートでゴールネットを揺らされ、日本は0-1で敗れてしまった。劇的勝利の興奮冷めやらぬなかで迎えたまさかの黒星は、日本中に大きな落胆をもたらした。
12月1日。グループステージ最終戦の相手は、W杯優勝経験を誇る強豪スペイン。日本は前戦の敗北を受け、ノックアウトステージ進出に黄色信号が灯るなか、「勝つしかない」という覚悟でピッチに立った。しかし、前半は予想通り圧倒される。ボール支配率82.3%という異次元のポゼッションを見せるスペイン。前半12分にはモラタのヘディングで先制を許す。なす術なく、0-1で前半を終える。だが後半、日本は流れを変える。三笘薫と堂安律を同時投入。すると後半3分、堂安がボールを奪ってそのまま左足で強烈なシュートで同点弾を叩き込んだ。そして、そのわずか3分後。ゴール前に流れたボールに三笘が猛追。誰もが諦めかけたその瞬間、ゴールライン上『1ミリ』を残して折り返すと、田中が飛び込み逆転。VAR判定を経て認められたこのプレーは、のちに『三笘の1ミリ』と称され、世界を驚かせることになる。わずかな可能性を信じて走った執念が、日本に奇跡を呼び込んだ。
12月5日、決勝トーナメント1回戦。グループEを首位で通過した日本は、前回大会準優勝の強豪クロアチアと激突した。互角の展開が続くなか、前半43分に試合が動く。左CKからのこぼれ球を前田が押し込み、ついに日本が今大会初の先制点を奪う。スタジアムには大歓声が響き渡り、勢いを増す日本。だが、後半10分にクロアチアのペリシッチが鋭いヘディングを叩き込み、試合は1-1の振り出しに戻った。その後は両者とも譲らず、延長戦に突入。120分を戦い抜いても決着はつかず、勝負の行方はPK戦へ。だが、ここで悪夢が待っていた。南野、三笘が立て続けに失敗。3人目の浅野が日本の意地を見せるも、続くキャプテン吉田も失敗。そして、クロアチア4人目のパシャリッチがゴールネットを揺らした瞬間、日本のW杯は終わった。
2大会連続でベスト8に一歩届かず、涙に暮れる選手たちの姿は国民の心に深く刻まれた。しかし、カタールで見せた数々の名場面は、間違いなく日本サッカー史に刻まれる一戦ばかりだ。2026年のW杯予選では、世界最速で出場権を獲得するまで成長している。まさに『優勝』の2文字も現実的と言っていいのではないだろうか。ますます目が離せない日本サッカーに期待したい。