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"The view beyond the challenge" Fencing star Karin Miyawaki, "Every time I overcome a wall, I become stronger"

勝つことだけが、すべてじゃない。でも、負けてもいいわけじゃない。フェンシングという一本の剣を通じて、「勝利」と「自分らしさ」のバランスを探し続ける宮脇花綸。オリンピックの舞台で感じた重圧、SNSとの距離感、そしてスポーツを超えて広がる新しい価値観──彼女は、競技者としてだけでなく、一人の人間としても常に「成長」を更新し続けている。「壁を越えた瞬間こそが、最高の瞬間」その言葉の奥には、挫折も、挑戦も、未来への確かなビジョンもある。フェンシングの剣先が捉えるのは、ただのポイントだけじゃない。社会、人生、自分自身への問いかけ。今、宮脇花綸が見ている景色の向こう側を、一緒にのぞいてみよう。※トップ画像撮影/松川李香(ヒゲ企画)

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変わりゆく価値観—スポーツと社会が向き合う瞬間

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Photography: Rika Matsukawa (Hige Kikaku)

──アスリートから見て、今の日本社会は、どう感じていますか?

同年代や、私より若い世代はすごくフラットで、新しい価値観をどんどん受け入れているなと感じます。反対に、高齢の方には予想もしない角度から昔の感覚をぶつけられることもあって…。

例えば、スポーツの世界だと「女性がボクシングをするなんて」とか、「女性アスリートは体を鍛えすぎて男になる」という会話を耳にしたのはショックでした。でも最近は、女性アスリートの在り方も変わってきているし、スポーツの捉え方自体も少しずつ変化しているなと思いますね。

──具体的に、どんな変化を感じますか?

昔は、特に私が10代の頃は、「勝つか負けるか」がすべてだったんですよね。小学生の頃から全国大会があって、とにかく結果を出すことに必死になるのが当たり前でした。でも最近では、柔道の小学生の全国大会が廃止されるなど、スポーツの在り方が変わってきています。

「勝つこと」だけじゃなく、スポーツを楽しむことや、その過程で何を学ぶかという考え方が広まってきているのは、すごくいい流れだなと思います。

──宮脇さん自身、勝利至上主義の世界で戦ってきたと思いますが、どう考えていますか?

私はアスリートなので、やっぱり「勝つことが一番大事」という考えは捨てたくないです。みんなが勝利を目指すからこそ競技レベルが上がるし、だからこそ観ている人の心を動かせる。

でも、「勝つことがすべて」ではないとも思っています。例えば、オリンピックで優勝できるのは1人だけ。でも、オリンピックに出場するだけでもすごいことだし、メダルを取れなかった人や出場できなかった人にも、それぞれの価値がある。

競技の結果だけじゃなく、そこで得たものや成長したこと、感じたことをもっとシェアできるような環境になればいいなと思いますね。

距離感もスキルのうち——SNSとの心地よい向き合い方

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Photography: Rika Matsukawa (Hige Kikaku)

──SNSって、良くも悪くもいろんな声が入ってくると思うんですが、宮脇さん自身はどう向き合っていますか?

私はダイレクトメッセージ(DM)を受け取れない設定にしているので、あまり嫌な思いをすることはないですね。結構前からそうしているので、SNSで直接ネガティブな意見を目にすることは少ないです。

ただ、ネット記事などでいろんな意見を見かけることはあります。SNSは自分にとって発信のツールなので、誹謗中傷はブロックしつつ、ポジティブな発信をメインに使っていくのが、一番良い付き合い方かなと思っています。コメントをもらうのは嬉しいので、そこは大事にしつつ、うまく距離を取っています。

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Photography: Rika Matsukawa (Hige Kikaku)

──宮脇さんは、自己プロデュースが上手だなと思うんですが、何か意識していることはありますか?

ありがとうございます!意識していることの一つは、週に1回は必ず更新することですね。本当に何も決めていないと更新しないタイプなので(笑)、3〜4ヶ月分のスケジュールを前もって決めておくようにしています。

試合の予定が決まっているので、「この日に試合報告をする」といったスケジュールを事前に組んでおくことで、コンスタントに発信できるようにしています。


──試合以外で、SNSでこんな面を見せていきたい、というのはありますか?

あまりないですね。基本的にプライベートはあまり出さず、フェンシング競技メインで発信しています。最終的なゴールとしては、私をきっかけにフェンシングを好きになってもらえたら嬉しいので、自然と競技に比重を置いた発信になっています。

弱点すら武器に——フェンシングが教えてくれること

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Photography: Rika Matsukawa (Hige Kikaku)

──まだフェンシングの魅力に気づいていない人に、宮脇さんの言葉で伝えるとしたら、どんなところを感じてほしいですか?

プレーする側の魅力として、フェンシングはオリンピックの中でも「格闘技」として扱われる競技ですが、階級がないんですよね。だから、150cm・40kg台の選手が、185cm・80kgの選手に勝つこともできる。スピードを武器にする選手もいれば、パワーや体格を生かす選手もいるし、私みたいに戦術をメインに戦う選手もいる。

つまり、「小さいことも長所になれば、大きいことも長所になる」。スピードがなくても、タイミングを工夫すれば勝てる。自分の強みをどう活かすかがすごく重要なスポーツなんです。

フェンシングをやっていると、「自分ってなんだろう?」「自分の強みって何だろう?」と考える機会が増えるので、競技を通じて自己分析ができるのも面白いところですね。

あと、フェンシングって相手がこちらの弱点を狙ってくるスポーツなんです。でも、その弱点をどう戦術に組み込むかを考えるのも楽しい。弱点をそのまま弱点で終わらせない、むしろ武器に変える。 そんな駆け引きがあるのも魅力ですね。


――奥深いですね。生で見る際に意識する点はありますか?

単純に「剣で戦う姿がカッコいい」というのが、まず1つありますね。オリンピックや全日本選手権の決勝など、大きな大会では照明の演出がすごく凝っていて、暗い会場の中でランプが大きく光るような演出が入るので、視覚的にも楽しめると思います。

さらに、大きな大会ではスローモーションのリプレイがあるので、通常のスピードだと分かりづらい「剣をかわす瞬間」や、「ものすごく狭い隙間を突いている場面」がじっくり見られる。これを知っていると、よりフェンシングの面白さが伝わると思います!

「個人で輝く、その瞬間へ——LAオリンピックへの挑戦」

──宮脇さんが公言されている次の目標は、やはり次回のオリンピックですよね。あと3年半ほどですが、「こんな自分を見てほしい」という思いを言葉にするなら?

次のオリンピックまでに、個人でメダルを取れる選手になることが大きな目標ですね。前回のオリンピックでは、チームで力を合わせて勝ち取ったという思いが強いんですが、次は個人としても輝く瞬間をもっと多く見てもらいたいと思っています。

私のプレースタイルは、基本的に小さい体格を活かして走って攻撃するスタイルなので、「小さいながらも攻守ともに全力で戦っている姿」を見てもらえたら嬉しいですね。

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Photography: Rika Matsukawa (Hige Kikaku)

──宮脇さんの中で、理想の「完全体の自分」が100%だとしたら、今は何%くらいまで来ていると感じますか?

今は60%くらいですね。パリでは一時70%くらいまで手応えを感じていたんですけど、今は少し落ちています。加えて、もっとプレーの幅を広げないと、個人でメダルを取るには足りないと感じているので、そこを強化していきたいです。

まだまだ「あと40%分、やるべきことがたくさんある」と思っています。


──前回のオリンピックまでの4年間も、かなり突き詰めた時間だったと思います。これからの3年半で、特に挑戦したいことは?

パリまでは、どちらかというと「精神的な強さ」を重視してきたんですが、次の3年間は、もっと技術的な部分にアプローチしていきたいと考えています。

精神的な強さはある程度ついてきたので、次は技術を磨いて、より多くの戦術を持つ選手になりたいですね。そのピースがはまれば、理想の自分にもっと近づけると思っています。

「壁を越えた瞬間、それが私の“最高”」

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Photography: Rika Matsukawa (Hige Kikaku)

──宮脇さんがフェンシングをやっていて、「最高!」と感じる瞬間って、どんなときですか?

やっぱり、新しいステージにたどり着いたと実感したときですね。

例えば、オリンピックの内定が決まったときや、実際にオリンピックに出場したとき。あとは、初めてアンダー20の試合でメダルを取ったときや、アジア大会に初めて出場して、当時トップだった選手に勝てたときもそうです。

「自分が確実にステップアップしたな」と実感できた瞬間が、一番最高だなと思います。

もちろん、それまでには色々な挫折もありましたし、オリンピックを目指す中で「もうやめようかな」と思ったこともありました。でも、そういう壁を乗り越えた瞬間こそ、最高の瞬間ですね。

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Photography: Rika Matsukawa (Hige Kikaku)

──そんな「最高の瞬間」を迎えたときに、自分へのご褒美って何かありますか?

ないですね(笑)。私は特にないですね。たぶん、物欲があまりないんだと思います。

パリの時も自分には何も買いませんでした。でも、お土産はたくさん買いました!

 

──人にプレゼントする方が好きなんですね?

そうですね。普段の試合でも会社の人にお土産を買うことが多いですし、オリンピックの時も、「感謝を伝える」のと同時に、「試合をもっと身近に感じてもらいたい」という気持ちがあって。「オリンピックに行ってきました!」だけじゃなくて、「パリで試合をしてきました!だから、フランスのお菓子を買ってきました!」という形で、少しでもその体験を共有できたらいいなと思ったんです。

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Photography: Rika Matsukawa (Hige Kikaku)

──じゃあ、本当に自分には何も買わないんですか?

 うーん、物へのこだわりはあまりないですね。でも、実家に帰って愛犬と昼寝するのは最高のご褒美かもしれません(笑)。これからも、このスタイルでいくと思います。

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Karin Miyawaki, who changed the history of Japanese fencing at the Paris Olympics - The small moments that make up "me"

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"Nurturing defeat" - Fencer Karin Miyawaki talks about her philosophy on competition and how to evolve

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宮脇花綸(みやわき・かりん)
1997年2月4日生まれ、東京都出身。三菱電機株式会社所属。姉の影響で5歳からフェンシングを始め、東洋英和中から慶應義塾女子高校に進学。高校1年の時に、太田雄貴選手から具体的目標を立てることの重要性を学び、オリンピックを目指すことを決意した。2013年にはシニアの日本代表チーム入りを果たす。2014年IOC南京ユース五輪で代表に選出され、女子フルーレ個人で銀メダルを獲得。2024年パリ五輪に出場し、パリ五輪ではフェンシング女子フルーレ団体で銅メダルを獲得した。


Photo:Rika Matsukawa