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【パリ五輪2024】卓球競技・後編 「打倒中国」掲げた女子が“秘策”で臨んだ大勝負  メダル視界の男子に待ち受けた試練

「パリ2024オリンピック」は7月26日に開幕して以来、2週間に渡り各競技で熱戦が繰り広げられた。そのなかで、大会前からメダル獲得が期待されていたのが卓球競技で、前回の東京五輪では金メダル1個(混合ダブルス)、銀メダル1個(女子団体)、銅メダル2個(男子団体、女子シングルス)の実績を残した。3年の時を経て迎えたパリ大会でも各種目で奮闘する日本勢の姿が見られたなかで、日本卓球チームがメダルをかけて挑んだ団体戦の活躍を振り返りたい。※トップ画像/VCG via Getty Images

Icon 30716468 1048529728619366 8600243217885036544 nYoshitaka Imoto | 2024/08/14

補完性を見せた戸上・篠塚のダブルスペア

混合ダブルス、男女シングルスに続いて行われたのが団体戦。男子はシングルスでベスト8の張本智和、16強入りした戸上隼輔に加えて、サウスポーの篠塚大登が団体メンバーとして参戦。同世代3人によるチームは第4シードの組み合わせで、リオ五輪(水谷隼、吉村真晴、丹羽孝希)の銀、東京五輪(水谷隼、丹羽孝希、張本智和)の銅に続く3大会連続のメダル獲得が期待された。

日本男子のカギを握ったのが戸上と篠塚が組むダブルスで、第1試合にダブルスを戦い、第2試合目以降にシングルスの戦いを控える団体戦のレギュレーションを考えると、ダブルスを取れるか取れないかが勝利に向けては重要な要素を占めていた。

それでも大会に向けて国際大会で磨きをかけてきた2人は初戦から強さを発揮する。1回戦のオーストラリアとの戦いでは篠塚のつなぎのレシーブが戸上のドライブにつながるなど、補完性に優れたコンビとして息のあったプレーを披露。篠塚は第3マッチで初のシングルスの舞台を踏み、順調なストレート勝ちで勝利に貢献した。

準々決勝では台湾との対戦になり、世界トップ10入りするエースの林昀儒に張本(智)が惜しくも競り負けたが、戸上・篠塚のダブルス、3番手戸上のシングルスを勝利した日本は、張本(智)が4番手のシングルスではストレート勝ちを納め、一つの関門だったベスト4への道を開いた。

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画像/Getty Images

張本(智)が銀メダリスト撃破も逆転負け

大会屈指の激闘となったのが準決勝のスウェーデン戦で、日本にとってはリオ大会以来の決勝進出も視界に入るなか行われた。戸上・篠塚ペアは1ゲームを奪われたものの、3ゲームを連続で奪取し、3試合連続勝利。そして張本(智)は、今大会シングルスで銀メダルに輝いたトルルス・モーレゴードとの第2試合で3-1とエースの働き。ゲームカウント2-0でリードし、メダル確定へ王手をかけた。

しかし、ここからスウェーデンの驚異の粘りが発揮され、第3試合の戸上、第4試合の篠塚でシングルスを落とし、2-2の同点に追いつかれる。そして運命の第5試合。
張本(智)はアントン・ケルベリとの戦いで、2ゲームを連取し勝利を目の前に引き寄せるが、相手に2ゲームを返され、最終ゲームへ。9-9の状況で2ポイントを失い、まさかの逆転負け。試合後はしばらく立ち上がれないほどのショックを受けた張本(智)の姿に象徴されるように日本男子にとっては厳しい1試合となってしまった。

3位決定戦に回った日本に待ち受けていたのは開催国のフランス。ルブラン兄弟を中心とした相手は実力だけでなく、地元の大観衆も味方した。フルゲームまでもつれ込んだものの敗れて4位に。準決勝、3位決定戦ともにフルゲームと実力では僅差の2試合だったが、3大会連続のメダルが最後のところですり抜けた。

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画像/Getty Images

活路を見出した早田のダブルス起用

金メダル獲得を掲げて今大会に挑んだ日本女子は、早田ひながシングルスで銅メダルを獲得したものの、左手首付近を負傷するアクシデント。平野美宇、張本美和で結成されたトリオは、過去大会と比較しても実力は最高レベルであっただけに、渡辺武弘監督が怪我のエースの状態をどう見極めながらオーダーを組んでいくかが勝ち上がるうえでは焦点となった。

迎えた初戦のポーランド戦で渡辺監督が見せたのが早田のダブルス起用で、同学年であり、国際大会でペアを組んだこともあった平野とのコンビが実現。シングルスでの2点起用も想定された早田を1番手におき、2番手のシングルスには大会に向けて成長速度を高めた張本(美)を置くオーダーを軸とした。3番手の平野のシングルスと合わせて、早田をいかに休ませつつ、ほかのメンバーで勝ち抜くかがカギを握った。

そんななか、早田・平野のダブルスペアはポーランド、タイ、ドイツと続いた戦いでコンビとしての成熟度を高めて3連勝。早田は怪我を負った後のシングルスではバックハンドの鋭いレシーブを封印し、そのほかの技術で戦い抜いたが、平野と組んだ戦いで徐々に早田らしいプレーも垣間見えた。

そして、重要な役割を担った張本(美)は初出場ながら初戦から堂々たるプレーを披露して2試合連続ストレート勝ち。準決勝のドイツ戦では2番手起用で0-3で敗れたものの、4番手では勝利してリベンジに成功。ダブルスに加えてシングルスでも3番手起用された平野も調子の良さを維持して、早田に負担をかけずに決勝にたどり着いた。

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画像/VCG via Getty Images

中国相手に渡辺監督が平野をエース起用

決勝では圧巻の強さで勝ち上がった中国との“頂上対決”が実現。ここでもオーダーに注目が集まったなか、渡辺監督が決断したのが、1番手に早田と張本(美)をおく「ひなみわ」ペアの起用と平野の2番手でのシングルス抜擢。国際大会ではほとんど見られなかった早田と張本(美)を五輪決勝の舞台で組ませ、平野を昨年夏に勝利していたエースの孫穎莎にぶつけるという大勝負に打って出た。

この起用は功を奏し、早田・張本(美)のペアは陳夢・王曼昱と対峙した戦いで立ち上がりから積極的な姿勢で前に出る。早田が後陣からフォアを振る場面が見られ、張本(美)は前陣で的確なバックレシーブを決めるなど、2人の圧力の前に中国ペアが押し込まれる時間帯も。それでも、最終ゲームではマッチポイントを奪いながらも、デュースをものにされての逆転負け。中国ペアのここ一番での勝負強さを垣間見た瞬間でもあった。そしてもう一つカギを握った2番手のエース対決は、平野が第1ゲームで孫から7-1のリードを奪うなど序盤戦を支配する。

今大会見せてきた充実のパフォーマンスを世界1位にも発揮した平野だが、ここから孫の粘りとパワーの前に形成が逆転。デュースの末に11-13で落とすと、そこから第2、3ゲームを落とし、最後は強さを見せつけられた。奮闘を見せてきた張本(美)も王相手に1ゲームを奪うなど序盤戦でリードしたが、相手の強烈なパワーと巧みな試合運びの前に3ゲームを連取されスコアは1-3。「打倒中国」を目指してきた日本女子の挑戦は銀メダルで幕を閉じた。

今大会の日本チームは早田が女子シングルスで銅メダルを獲得し、女子団体も4大会連続となる表彰台に立った。団体でメダルを逃した日本男子は張本(智)がシングルス4強入りをかけた戦いで樊振東を最後まで苦しめるなど、中国勢相手にも自分たちの時間を作る姿が今大会の日本には見られた。厳しい選考レースを勝ち抜いてパリの舞台に立った男女の選手たちの奮闘劇。勝敗だけでない一つひとつのシーンは人々の脳裏に焼きついたことだろう。