【パリ五輪2024】卓球競技・前編 日本の“エースペア”に起こったまさかの悪夢 満身創痍のサウスポーが掴み取った涙の銅メダル
「パリ2024オリンピック」は7月26日に開幕して以来、各競技で連日熱戦が繰り広げられてきた。大会開幕前から前評判が高く、メダル獲得が期待されていたのが卓球競技。前回の東京五輪では金メダル1個(混合ダブルス)、銀メダル1個(女子団体)、銅メダル2個(男子団体、女子シングルス)の実績を残した。3年が経ち迎えたパリ大会でも各種目で奮闘する姿が見られてきたなか、日本卓球チームの前半戦の活躍を振り返りたい。※トップ画像出典:VCG via Getty Images
水谷・伊藤ペアの再現ならず
メダルラッシュが期待されていた日本卓球チームだったが、序盤に待ち受けていたのはまさかの展開。先陣を切る形で出場した張本智和・早田ひなペアは、大会前の国際試合で4大会連続優勝を飾ってパリに乗り込んだ。
第2シードで大本命の中国ペアとは決勝まで当たらない組み合わせだった日本のエースペアには、前回の水谷隼・伊藤美誠ペアに続く2大会連続金メダルも期待された。
そんなふたりの前に立ちふさがったのが北朝鮮ペア。1回戦で対戦したリ・ジョンシク、キム・クンヨンの2人はコロナ禍以降の国際大会に出場しておらず、世界ランキングは「なし」。予選から本大会の出場権を勝ち取ったダークホースと呼べる存在であった。
初対戦でデータが少ないなかでの初戦を迎えた張本・早田ペアは、この北朝鮮ペア相手に立ち上がりから大苦戦。小柄でサウスポーのキム・クンヨンと鋭い反応を見せるリ・ジョンシクのテンポの良いラリーの前に主導権を握れない。
1-3で迎えた第5ゲームも反撃の糸口を見つけられないまま失い、1-4でまさかの1回戦敗退。頂点を見据えた“はりひな”ペアの挑戦はまさかの形で幕を閉じることになった。
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初出場・戸上はらしさ溢れるプレー
エースペアの初戦敗退という波乱の展開で開幕したパリ大会。続いて行われたのがシングルスで、日本男子は第6シードの張本と、第10シードの戸上隼輔の2選手がそれぞれ一発勝負のトーナメントに挑んだ。
初出場の戸上は得意の両ハンドドライブを武器に堂々たるプレーを披露する。1回戦でワン・ユージン(カナダ)相手にストレート勝利を収めた戸上は、五輪特有の雰囲気に飲まれることなく勝ち進み、2回戦ではデニ・コズル(スロベニア)相手に第1、3ゲームを奪われる展開を跳ね返し4-2で逆転勝利した。
そんな戸上のベスト8をかけた戦いに立ちはだかったのが韓国のエースであるチャン・ウジン。日韓対決では強打による白熱のラリーが展開され、第2ゲームはデュースの末に16-18で落とすなど、一進一退の攻防が繰り広げられる。
しかし、チャン・ウジンの手堅い卓球の前に崩し切るには至らず。0-4のストレート負けを喫し、戸上の初めての五輪シングルスは16強で幕を閉じた。
張本智和は世界王者との大激戦
自身2度目の出場となったエースの張本は、混合ダブルスでの初戦敗退のショックを引きずることなくシングルスへ。大会前から見せてきたキレの良い動きを見せつける。
順調に1、2回戦を突破すると、3回戦のアンダース・リンド(デンマーク)も4-1で退けてベスト8進出。自身初のベスト4行きをかけて、前回銀メダリストで第2シードの樊振東(中国)との大一番に挑むことになった。
持ち味のバックハンドを中心としたラリー力、前後への多彩なサービス、また、フォアでも積極的に前に出るなど自身の技術を樊振東相手にも遺憾なく発揮する。
試合は張本が2ゲームを連取して、その後同点に追いつかれるが、第5ゲームを11-4で奪った張本が先に王手をかける展開に。
強靭なメンタルを持つ樊振東の粘りの前にフルゲームにもつれ込んだ試合は、最終ゲームを奪われた張本が無念の逆転負けを喫した。その後、決勝で勝利し金メダルを獲得した世界王者相手に日本のエースが熱戦を繰り広げ存在感を示した。
平野美宇は韓国エース相手に驚異の粘り
女子シングルスに参戦したのは第3シードの早田と第8シードの平野美宇のふたり。同学年で出場権を勝ち取った両者にはメダル獲得が期待された。
2度目の出場にして自身初のシングルス出場となった平野は1回戦から鋭い動きをみせ、持ち味のバックハンドや磨きをかけた緩急を使ってのラリー、サービスでも相手を翻弄。
1、2回戦を順調に突破すると、3回戦で対したのはマニカ・バトラ。インド選手として初めてラウンド16へ駒を進めた異質ラバーの相手には1ゲームを失っただけで4-1で勝利し、準々決勝へと駒を進めた。
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そしてベスト4をかけて戦ったのが第4シードの申裕斌(韓国)。試合は力強いラリー力を武器に、第3ゲームまで申裕斌が圧倒する形で平野はいきなり崖っぷちに追い込まれた。
一度崩れると、そのまま試合を終えてしまう傾向も見られた平野だったが、ここから驚異の追い上げをみせる。3ゲームを奪い返し最終ゲームまでもつれ込み、マッチポイントを奪うなど大逆転勝ちも視界に入った。
最後は韓国エースに意地を見せられ敗れたものの、男子の張本戦に匹敵する名勝負となった。次の団体戦につながる手応えのある戦いぶりだった。
早田はシングルスでリベンジ
そして、混合ダブルスのリベンジに挑んだのが早田。1回戦のデボラ・ビバレッリ戦で圧勝した早田は、その勢いのまま圧巻の3試合連続ストレート勝ち。ベスト8進出を順当に決める。
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しかし、再び北朝鮮選手との戦いとなったピョン・ソンギョン戦ではフルゲームの末に勝利したものの左手首に負傷を負ってしまうアクシデント。準決勝では万全でないなか、世界1位でこれまで0勝15敗だった孫穎莎(中国)との対戦を強いられてしまう。
孫穎莎との戦いでは磨きをかけてきたバックでの鋭いレシーブが鳴りを潜めるなど本来の調子とはほど遠いプレーでストレートでの完敗。試合後には涙を流した。
それでも、ここからの精神力が早田のエースたる所以で棄権も考えられた状況で意地を見せる。
3位決定戦で申裕斌との“日韓エース対決”ではフォア中心の組み立てで、つなぎのラリーで相手のミスを誘発するなど「今できる」プレーに徹した。今大会好調の相手に第1ゲームを奪われたものの、3ゲーム連続で奪い逆転。4-2で勝利し、自身初の五輪で銅メダルに輝いた。
早田にとっては混合ダブルスで初戦敗退のスタートから、シングルスではまさかの負傷。紆余曲折を経ながらも得た五輪での自身初メダルであった。