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挑戦し続ける小さな巨人・大嶋あやのが描く夢の舞台にむかって vol.1

「成せば成る、成さねば成らぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり」――この言葉を胸に、幼い頃から憧れた夢の舞台に向かい続ける大嶋あやの。何度も立ちはだかる壁に挑み、倒れても立ち上がるその姿は、「人間が想像できることは大概できる」という信念を体現している。「SASUKE」や「ninja warrior」といった挑戦的な競技で活躍し、日本代表を目指す彼女は、身長155cmという小柄な体から繰り出される卓越したスピードと技術でスピードクライミングにも取り組み、世界大会を目指している。彼女の挑戦と成長のストーリーに注目してほしい。※トップ画像:撮影/松川李香(ヒゲ企画)

IconIppei Ippei | 2024/08/26

新体操との運命的な出会い

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

小学校4年生の頃、新聞のチラシで新しい教室ができるという広告を見かけました。それが私の新体操との運命的な出会いでした。私には7つ上の兄がいてサッカーをしていました。父も水泳や野球をしていたので、家族全員がスポーツ好きでした。小さい頃から、休みの日には土手で野球をしたり、いろいろな場所に遊びに行ったりしていました。家族で一緒に動き回ることが大好きだったのです。

しかしながら子どもの頃の私は、努力や辛いことを避けがちでした。当時取り組んでいた新体操は体が柔らかくないとできないスポーツで、毎日レッスンがなくてもストレッチや柔軟をしなければなりません。それが痛くて、何度もやめたいと思いましたが、踊ったり技を決めたりするのは好きなので「楽しければいいや」と思って続けていました。

新体操を始めて2年目くらいの時、先生と相談して競技会に出ることを決めた私は、初めてマンツーマンのレッスンを受けることにしました。集団の中で練習していた私が、1対1で教えてもらうことで、自分の踊りが変わっていくのを実感し、結果として競技会では3位を獲ることがことができたのです。日々上達している実感と、人生初のメダル獲得という体験から、努力をすることの大切さを理解しました。その経験を通じて、取り組み方や心構えが変わり、新体操を通じて今に至るまでの基盤ができたのだと思います。

テレビの「SASUKE」が与えた衝撃

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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

小学校の頃、テレビで見た「SASUKE」に強い影響を受けました。夕食後に家族で見ていた「SASUKE」で、挑戦者が次のステージに進むために必死に頑張る姿に引き込まれ、毎年欠かさずにSASUKEを見るようになりました。特に2006年に最後のステージまでクリアし、完全制覇を成し遂げた長野さんの姿が印象に残っています。その姿を見て、自分もあの舞台に立ちたいと漠然と思うようになりました。その思いを抱えながら、中学校や高校では部活に打ち込みましたが、SASUKEの出場方法もよくわからず、時は過ぎていきました。

SASUKE出場への挑戦、父と二人三脚で作り上げた自宅SASUKEセット

大学生の時、たまたまSASUKEの募集開始の告知を見つけました。最初の年はホームページ選考で落ちてしまいましたが、私は負けず嫌いの性格のため、どうすれば出られるのかを模索した結果、2回目の応募の前に自宅にSASUKEのエリアを模したセットを作ることを思いつきました。

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提供画像/本人(大嶋あやの)

当時、女性で自宅にSASUKEのセットを作る人はいなかったので、父に手伝ってもらいながらセットを作り、その様子をFacebookに投稿して、番組制作の人たちに見てもらおうと思いました。その結果、2年目の応募で合格し、ついにSASUKEに出場することができたのです。

諦めない挑戦心

2015年に行われたSASUKE第31回大会が、私にとって初出場の大会でした。出場が決まった時、より本番に近い練習がしたいと思い、自宅にセットを作っている方のところに行って練習をさせてもらいました。本番を迎えた時の心境は、内心ではクリアできそうだと感じていて、緊張は全くありませんでした。しかし、実際にはタイムアップで脱落してしまいました。エリアをクリアできずに脱落したのではなく、時間が足りなかったという結果に対して悔しさを感じましたが、本番ではタイムを気にする余裕がなかったので、一発勝負で結果を出すことの難しさを痛感しました。しかし、当時の日本人女性の記録を更新することができたので、この結果が今に繋がっていると感じています。

体育大学でのトレーニング

当時、私は体育大学に通っていたので、トレーニングで自分を追い込む必要はありませんでした。授業で動く機会が多かったため、自然と運動量が確保できていたのです。自分のこれまで培ってきた身体能力に加えて、SASUKEに出場するための特別な練習もいくつかの人たちのところでさせてもらいました。体育大学で培った運動量と事前練習のおかげで、初出場時には自信を持って挑むことができました。

イメージトレーニングが実り、ドラゴングライダー初突破!

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提供画像/TBS

2017年に導入されたドラゴングライダーは、ぶら下がりのエリアのため、クライミングをしている身としては絶対に落ちたくないエリアでした。私が出場した2018年の第36回大会の前年にドラゴングライダーが初めて導入されたので、その様子をテレビで見ることができたのは非常に大きな助けとなりました。36回大会に向けては、ひたすらイメージトレーニングをおこない、ドラゴングライダーに似たセットを作っている人のところで練習させてもらいました。実際にセットを使って疑似体験をすることで、本番に向けた感覚を養うことができ、本番では自分の努力と準備が結果に結びつくことを強く感じました。

悔しさをバネに、再挑戦への強い意志

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提供画像/TBS

36回大会以降の4大会で印象に残っているのは、第36回大会と39回大会でそり立つ壁が登れずにリタイアしたことです。そり立つ壁さえ登れれば1stステージをクリアできると考えていたので、普段からそり立つ壁を意識して練習していたのですが、37回大会と38回大会ではそり立つ壁よりも前のエリアで落ちてしまい、うまくいかないなと感じることが多かったです。常にどこか噛み合っていない感じがして、悔しい思いをしていました。その背景には、練習不足や準備不足があったように思います。

大学時代は体育大学で運動量が多く、自然と体力がついていましたが、就職してからは運動量が減り、クライミング以外のトレーニングが十分にできていませんでした。クライミングだけではカバーできない部分を実感したため、40回大会に向けては、これまでの反省を活かし、全ての要素に対してしっかりと準備をしました。その結果、ようやく自分が納得できる日本人女性24年ぶり1stステージクリアという結果を出すことができました。この大会は、自分にとって大きなターニングポイントとなりました。

練習と本番の違いに挑む工夫

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提供画像/TBS

練習と本番ではいくつか大きな違いがあります。まず、スケールが異なる点です。本番のセットは完全には再現できないので、やや違う感覚があります。さらに、本番では観客がいることや、多くのカメラが自分を追い続けることも大きな違いです。練習中は自分のペースでアップして、好きなタイミングで挑戦できますが、本番では待ち時間中にはリアクションや挑戦者同士の会話を撮るカメラが付いて回ります。そのため、自分の時間がほとんどなく、限られた時間でアップし、準備を整えなければなりません。

特に本番では、前の参加者の進行状況によって、自分のスタートのタイミングが押したり、早まったりするので、自分のタイミングで良い波を作るのが難しいです。このように、本番では練習とは異なる多くの要素に対応しなければならないため、準備の難しさを強く感じます。


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撮影/松川李香(ヒゲ企画)

そういった本番の環境下で私が工夫していることは、あまり感情移入しないようにすることです。いつ自分の番が来てもいいように、だいたい10人前くらいの段階で一度軽くアップをします。その後は、他の参加者のトライを見て、自分も視聴者のように無心で楽しむことを心がけています。みんなの挑戦を見て仲間たちと会話していると楽しいですし、喋り続けることで緊張も紛れます。

とはいえ私は、あまり緊張してガチガチになってしまうタイプではないので、楽しく普通にいつも通り過ごすことを心がけています。自分の番が来たら、あとは全力で挑むだけです。本番では、参加者たちはひな壇に集結し、そこで挑戦を見守ります。失敗したポイントや上手くいったポイントなどを話し合ったり、普通の世間話をして過ごしています。普段は会えないタレントさんや海外からの挑戦者も同じ場所にいるので、なるべく話しかけてコミュニケーションを取るようにしています。こうして、リラックスした状態で自分を高め、本番に臨んでいます。


VOL2につづく。


大嶋あやの(おおしま あやの) 
1994年7月14日生まれ、東京都出身。日本女子体育大学卒業。幼少期から新体操、バレーボール、ソフトボール、ボルダリング、スピードクライミングと幅広いスポーツに取り組み、現在はスピードクライミング選手として活動中。2015年からはTBSテレビの『SASUKE』に出演している。特技は数独とバレーボール、趣味はギターやピアノの演奏、読書。


Hair&make:Marijo Nishizawa(PUENTE Inc.)
Photo:Rika Matsukawa