Going beyond the unprecedented. Professional tennis player Yuta Funamizu aims for new possibilities in racket sports by taking on the challenge of "two-sword style"
アメリカで爆発的に成長を遂げているスポーツ「ピックルボール」と出会い、選手として挑戦することを決意したプロテニスプレイヤー・船水雄太。今年1月から単身で渡米し、トップ選手が競い合う「メジャーリーグ・ピックルボール(MLP)」に挑戦。日本初のMLP選手を目指して日々奮闘している。アメリカという異国の地で、どのような半年間を送ってきたのだろうか。そして、“二刀流”挑戦の先に見据える未来とは。その胸に抱く想いを熱く語ってもらった。※メイン画像:撮影 / 長田慶
Principal Sato
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2024/07/29
不安で心が押しつぶされても……「言葉の壁」に挑み続けた半年間
撮影/長田慶
ーー2024年1月から約半年間、MLPに挑戦されていますが、アメリカでの生活で苦労されたことも多いのではありませんか?海外で活躍している日本の野球選手やサッカー選手のように、自分の腕一本で実力を認めてもらえるレベルであれば自然と仲良くなったり、輪が広がるとは思うんですけど、MLPに挑戦している選手はみんなめちゃくちゃ強くて。渡米してからの2ヶ月間はシングルスで1度も試合に勝つことができませんでした。英語も話せなければ、ピックルボールでも力を示せない……。周りの選手から馬鹿にされる日々が続きましたね。
もう、かなり大変でした。最初の2ヶ月間はパートナーが見つからず、ダブルスの試合に1度も出場することができませんでしたから。日本人というのもありますし、ソフトテニスの技術を使った独特なスタイルでプレーするので、相手にするだけでもすごく面倒くさがられるんですよ。
ーー想像以上に厳しい環境で過ごされていたんですね……。ペアを組んでもらえる選手を見つけるだけでも、相当大変な作業だったのでしょうか?
それに仲間内でトレーニングをしたり、ペアを組む選手がほとんどなので、そもそも僕がその輪に入れていないというのが問題というか。1番苦労しているところです。
はい。英語コーチング「プログリット(PROGRIT)」を展開している株式会社プログリットさんにサポートしていただいて、毎日、練習の前後で約2時間、英語の学習をしています。ピックルボールの練習と同じぐらいの努力量で取り組まないと、ダブルスでいいパートナーに巡り会うことはできないと思うので、少しでも早く実用的な英語力を身に付けられるよう必死に向き合っているところです。
最初は英語力ゼロで、自己紹介も怪しいぐらいの状態からのスタートでしたけど、いまは少しずつですが、外国人選手に自分の意思表示をすることができるようになってきました。ダブルスでペアを組めるようにもなりましたし、試合中でも身振り手振りや表情含めてコミュニケーションを取れるので、いい傾向にあるなと感じています。
ーーその難関を突破するために、英語の勉強を取り入れたんですよね。
ーー現地で英語と向き合い続けて半年間、言葉の壁を乗り越えることはできたのでしょうか?
ただ、ペアを組んで最初の頃は、僕がミスをしたり納得いかないプレーをすると強めに主張してくるので、そこは苦労しましたね。「ごめん、ごめん」と謝ってばかりでしたし、自分の技術に自信がない時期でもあったので、不安や恐怖で心が押しつぶされていました……。けど、いまは自分の思っていることを伝えられるようになったので、フラットな関係でやり取りできています。
あとは食事の時などフリーの時間で楽しく雑談できるぐらいの英語力があれば、もっと仲を深められると思うので、そこは課題ですね。とはいえ友達は増えてきているので、着実に英語が身についているなと実感しています。
そうですね。でも英語さえできれば、スポーツ選手としてはもちろん、ひとりの人間としての価値というのはすごく高まるなと感じました。言葉の壁がなければ、どこに行っても自分の能力やスキルを遺憾なく発揮することができるので、英語を勉強して損はないなと思います。
いえ、ピックルボールの大会はアメリカ全土(マイアミ、ニューヨーク、ロサンゼルス、サクラメントなど)で中3日から1週間おきに開催されるので、ベースキャンプは持たずに移動しているんです。なのでほぼ毎週、大会に参加しています。
ソフトテニスでも同じようなスケジュール感で国内外を転戦してきたので、その経験が自分の支えになっているのかなと。知り合いにいまの生活の話をすると「気が狂ってる」と言われますが(笑)。
ーーお話を聞いていて、やはりスポーツ選手の海外挑戦における英語力の有無というのは、競技生活にかなり影響するなと感じます。
通訳を雇うことも選択肢としてはありますが、自分自身で何かを伝えようとする気持ちが大事だなと、外国人選手と過ごす中ですごく感じたので、一生懸命、自分から文化に溶け込もうという姿勢は忘れずに、これからも挑戦していきたいです。
倒れてもチャンスは逃さない。アメリカンドリームを掴むために
撮影/長田慶
ーーアメリカでは選手の合宿所のような場所で生活しているのですか?ーーそんなハードスケジュールをこなせる体力がすごい……!
ほかの外国人選手は2週間に1回とか、大会を絞って参加する人がほとんどなんですけど、僕が出続けているので、「この日本人ずっといるぞ」みたいな顔で見られます(笑)。それぐらいしつこくハードスケジュールをこなしているので、客観的に見ても「自分、体力あるな」って思いますね。
1日にだいたい1時間ぐらいのゲームを3試合、多ければ9試合したこともあります。トッププロともなれば、今日はシングルス、明日はダブルスというように日によって種目を分けるんですけど。アマチュアの選手の場合、予選を一気に終わらせるために、1日に全種目の試合を入れられたりするので大変ですね。アメリカらしいといえばらしいのですが。
じつはこの半年間で、休みは2日しかなくて。といっても、40度の熱を出して倒れた日が2回あったという意味なので、実質休みではないんですけど(笑)。
アメリカにはピックルボールで賞金を稼いでいるプロ選手はたくさんいて、みんなそのドリームを目指してずっと練習を続けている。そんな状況を間近で見ていると、やっぱり自分だけ休んでられないなって思うんです。本当にどの選手も自発的にものすごく練習するので、トレーニング量だけは負けないようにしようと意識しています。
ーーちなみに、大会では1日に何試合ぐらいするんですか?
ーー大会中もとてつもないハードスケジュールですね。休日だったり、息抜きをする時間はあるのでしょうか?
ーーえ……!? そこまで厳しい状況に追い込まれても、船水選手を突き動かすものって一体なんなのですか?
たとえ夜遅くや早朝でも、ほかの選手に練習を誘われたり、トッププロから球出しを頼まれればすぐに向かいます。どんな形であろうと、ピックルボールコートにいることは、僕にとって、選手として飛躍するためのチャンスを拾うということ。それを決して逃さないよう、心も体もつねに準備を整えているんです。
最初の2ヶ月間で1度も勝てないところから、毎日必死になって練習して、ようやくひとつ結果を残せたことは自信になりました。これで行ける、とまではいきませんが、試合を通じてソフトテニスの技術がピックルボールで自分の長所として、大きな武器として生きているのをすごく感じることができたんです。特にボレースキル。ここを突破口に技術・戦術を組み立てて、さらにパワーアップしていけば、目標であるMLPプレイヤーに、そして世界チャンピオンになれるんじゃないかと。その可能性をひしひしと感じながら、いまはトレーニングしているところです。
はい。その勝ちポイントが多いランキング上位に名を連ねると、毎年1月に実施されるドラフト会議で指名され、MLPプレイヤーになる可能性が高まります。これはもう、やり続けた人が最後には勝つんじゃないかと思うので、実力もそうですが、気力と体力を持たせられるかどうか。そこがプロ入りへ求められる大きな要素でもあると思うんです。
ーー本当にこの半年間、ピックルボールにすべてを捧げてこられたんですね。その中で、4月にマイアミで行われた大会ではシングルスで予選を突破し、自身最高の24位という結果を残されました。手応えはいかがですか?
ラケット競技が「楽しい」と思ってもらえるように。“二刀流”挑戦の先に描く未来
撮影/長田慶
ーーMLPプレイヤーになるには、さまざまな大会に出場し、勝ちポイントを積み重ねていく必要があるんですよね。ひとりで異国の地に乗り込んできた身としては、まだまだ困難な道になるとは思いますけど、これからも気を引き締めながら、粘り強くチャンスに食らいついていきたいです。
ありがとうございます。SNSでもそうですし、「ピックルボールジャパンTV」というYouTubeチャンネルを運営しているんですけど、そこの投稿動画にもコメントをいただいているので、みなさんのメッセージがすごく励みになっています。めちゃくちゃ応援してもらっているので、本当に嬉しいです!
ピックルボールの試合や、アメリカでの生活のリアルな模様を動画にして届けています。日本ではなかなかMLPツアーを見る機会がないと思いますし、今後の国内でのピックルボール競技発展に向けた大きな一歩にもつながるので、少しでも見てもらえるとありがたいです。
これは硬式テニスも含めてですけど、ラケット型のスポーツはやっぱりラリーが楽しいじゃないですか。でもラリーを続けるのって難しいし、それによって楽しさを味わえないままやめていく人たちが多いと思うんです。僕自身、全国でイベントを開いて子どもたちにソフトテニスを教える際、ラリー練習に1番難しさを感じているので。
ーー日本でも船水選手の挑戦を応援している人はたくさんいると思います。
ーーどんな動画を投稿しているのですか?
ーー最後に、ソフトテニスとピックルボール選手の両立によって、船水選手が見据える未来をお聞かせください。
でもピックルボールは、30分レクチャーするだけで試合ができるようになるぐらい簡単に入れますし、ラリーも続きやすい。ラケット競技の入り口として、これほど適したスポーツはありません。なのでピックルボールの認知度が広がれば、ラケット競技に楽しさを覚えて、ソフトテニスの競技人口も増えてくる。僕が二刀流でどちらの競技シーンでも活躍することで、それがより現実的なものになってくると思うんです。
ソフトテニスとピックルボール、どちらにとっても次に向けた新しい可能性を創っていきたい。前人未到の道なので、試行錯誤の連続になるとは思いますが、これからも信念を持って前に突き進んでいきたいと思っています。
船水雄太(ふねみず・ゆうた)
船水雄太(ふねみず・ゆうた)
1993年10月7日生まれ、青森県黒石市出身。
5歳からソフトテニスを始め、中学から世界一を目指し競技に専念。東北高校3年でインターハイ団体・個人の2冠に輝き、早稲田大学進学後はインカレで団体戦、ダブルス、シングルス全タイトルを獲得。全日本大学対抗ソフトテニス選手権では4連覇を成し遂げた。同4年時の2015年には世界選手権のメンバーに選出され、国別対抗戦で世界一になり、中学生時代からの夢を叶える。翌年には全国約200チームあるソフトテニス実業団の最高峰、NTT⻄日本に加入し、ソフトテニス日本リーグ10連覇を達成。日本代表としても、数々の国際大会で優勝するなど第一線で活躍を続けた。2020年には、弟の(船水)颯人に続く日本人2人目のプロソフトテニスプレイヤーとして独立し、国内における同競技の普及・発展に尽力。2024年からはアメリカで人気沸騰中のスポーツ「ピックルボール」の選手としても活動を開始し、米プロリーグ「メジャーリーグ・ピックルボール(MLP) 」に挑戦中。日本人初のMLP選手を目指す。