「強さとは、“自分を貫く”ということ」鶴屋怜、UFCに挑む22歳の現在地
「強さ」は、リングの上だけで磨かれるものじゃない。21歳にしてUFCと契約し、プロデビューから無敗のまま世界の檜舞台へ。 華々しい戦績の裏には、幼少期から培ってきた“日常”の積み重ねがある。3歳からレスリングに触れ、厳格な校則に縛られた高校時代を経て、髪型も服も、自分の「スタイル」を追い求めた青年は、いま静かに格闘家としての美学を確立しつつある。格闘技と日常、その境界を飛び越えて生きる男・鶴屋怜。彼の言葉から浮かび上がるのは、「勝つ」ことよりも、「どう在るか」を問い続ける等身大の姿だった。※トップ画像撮影/松川李香(ヒゲ企画)

「強さの裏に、“眠り”と“料理”という武器があった」
――今日はよろしくお願いします!さっそくですが、普段の1日のスケジュールって、どんな感じなんですか?
最近はちょうど試合が終わったばかりなので、練習も1日1回とかで、けっこうゆったりしてますね。でも、基本は昼と夜の2部練が自分のペースです。それ以外の時間は自由時間って感じです。
――自由な時間は、何か意識して取り入れていることってありますか? 格闘技のために、という意味で。
夜練がない日は、けっこう寝てます。やっぱり疲れが残ると次の練習にも響くんで。睡眠はめちゃくちゃ大事ですね。
――なるほど、睡眠は“トレーニングの一部”って感じですね。じゃあ食事面はどうでしょう?
そこもけっこう大事にしてます。練習後の食事は、自分で料理することも多いです。栄養面も気になるし、作るのも好きなんで。小さい頃から、母親の料理を手伝うのが好きで。自然とそのまま今も、料理が好きなままですね。
――激しい練習の中で、料理ってリラックス効果もあるんじゃないですか?
ありますね。減量中は食べたいものが食べられなかったりもするんですけど、「これ食べたいな」って思ったら、せめて自分で作ってみたり。そういう時間が、自分にとってのリフレッシュになってると思います。
――格闘技と料理、まったく違うようで、どこか共通してる部分もある気がしますね。
自分にとっては、料理してるときも“自分と向き合ってる時間”って感覚があります。頭もリセットできるし、バランスが取れてる感じがするんですよね。
“普通”じゃ面白くない、自分を貫くスタイル哲学
―― 鶴屋さんのスタイルを見ていると、ピアスや髪型など、ただの見た目ではない“表現”を感じるんですが、そこに込めている思いはありますか?
そうですね、キャラづけって訳じゃないんですけど、“普通”ってあんまり面白くないなと思ってて。だから少し周りと違ってもいいかなって。もちろん、中にはそういうのをよく思わない人もいるかもしれないですけど、僕自身は「これが自分」って思って、気にせずやってます。
―― 髪型もかなり印象的ですが、こだわりがあるんですか?
めっちゃあります(笑)。高校時代にプロデビューしたんですけど、校則が厳しくて、ぱっつんみたいな短髪しかできなかったんですよ。でも卒業してからは一気に自由になって、ピンク、青、黄色、緑……いろいろ試しましたね。
髪を短くしてパーマをかけたりもしたし、いろいろやっていく中で「意外と長めの髪が似合うね」って言われて。今のスタイルは、自分の中でも一番しっくりきてます。
―― 髪の色もかなり変えていたんですね。何かインスピレーションになった人はいますか?
特に「この人!」ってわけじゃないんですけど、昔から派手な色とかファッションが好きだったんです。ビビッドな色の服を着たり、髪を明るくしたりしてました。でも最近は、黒とか落ち着いた色味が増えてきて、自分の中でもちょっと変化してきてますね。
――アメリカンスタイルっぽい雰囲気もありますが、何か影響はありますか?
それ、言われます(笑)。でも、直接アメリカの誰かに影響されたっていうより、高校時代にめちゃくちゃ厳しい学校にいたんですよ。校則が厳しすぎて、やりたいことが全然できなかった。それが反動で、卒業してからは一気に解放されて、髪型も服装も好きなように楽しむようになったって感じです。
「見た目も戦いの一部」ファッションに込めた自己表現
―― 今日もオシャレなスタイルですけど、普段ファッションにはこだわりありますか?
ありがとうございます。練習がない日は、服を見に行ったりするのが好きで。おしゃれな総合格闘家って多いと思うんですよね。見た目もパフォーマンスの一部というか、自分を表現する手段のひとつだと思ってます。
―― お気に入りのブランドやショップはありますか?
まさに今着てる服のブランド「APPLEBUM」がそうなんですけど、高校の頃から好きだったんですよ。最近ご縁があって、スポンサーになっていただけて。ずっと好きだったブランドなので、ほんとにうれしかったです。「好きがつながった」感じで、自分としても気持ちが入りますね。
―― 鼻のピアスも印象的ですが、いつ頃からですか?
去年の年末に開けました。ずっと開けたかったんですけど、格闘技やってると「練習のとき邪魔かな」とか「化膿したら嫌だな」とか心配で。でも思い切って開けてみたら、意外と全然問題なかったですね。今ではもうしっかり安定して、気に入ってます。
3歳から始まった“当たり前”。気づけばそこに“格闘技しかない”人生があった
―― 格闘家としてのキャリアは、なんと3歳からスタートされたとか。
はい、兄と一緒に3歳でレスリングを始めました。でも最初は、本格的なレスリングというよりは、マット運動に近い感じでしたね。技術を競うというより、体を動かすことを楽しむ“遊び”に近かったと思います。
―― その中で、「戦うことが楽しい」と思うようになったのは?
うーん……正直、「戦うことが楽しい!」っていう感覚は、実はあまりなかったんです。小さい頃から“それしかやってこなかった”という方が正しいかもしれません。勉強もそこまで頑張ってたわけじゃなかったし、家でも「レスリングをやってればOK」みたいな空気があって。
自分の中でも深く考えず、「とりあえずやっておけばいいか」みたいな感覚で続けていました。
―― その延長線上で、ここまで来たと?
そうですね。中学、高校と進むにつれて、気づいたらもう「格闘技しかないな」と。別に「夢はこれ!」って明確に決めてたわけでもないけど、他にやりたいことがあったわけでもないし、勉強で別の道を目指す気持ちもなかった。
自然と、ここしかないっていう感覚が、自分の中に根づいていったんです。
レスリングをやめたかった日。小4の僕が見た“もう一つのリング”
―― 多感な時期って、気持ちが揺れる瞬間も多いですよね。そういう迷いはありませんでしたか?
ありましたよ。小学校4年の時、一度レスリングをやめたくなったんです。同じ練習の繰り返し、夏休みも冬休みも合宿で、遊びに行く暇なんてない。クリスマスですら練習だったりして。正直、「なんのためにやってるんだろう」って気持ちになりました。
―― それは…しんどいですね。理由は「単調さ」だったんでしょうか。
そうですね。レスリングって、すごくストイックな競技なんですよ。同じ技を何百回も繰り返す。練習が地味で、とにかくきつい。その時は「こんな毎日、面白くないな」って思ってました。
―― そのとき、「辞めよう」と決めた?
いや、「他のことをやってみたい」っていう気持ちの方が強かったかもです。それで、父に「ボクシングをやってみたい」って言ったんですよ。
―― そこから一気にボクシングに?
いえ、父に言われたのは「レスリングで全国優勝したら、ボクシングやっていいよ」って条件でした。たぶん、父も「そんな簡単に優勝できないだろう」と思ってたと思うんですけど……実際に、優勝しちゃって(笑)。
―― 有言実行(笑) そこからボクシングも。
少しの間だけですけど、実際にボクシングジムに通ってました。でも、ボクシングの世界には、幼稚園の頃から始めてるような子たちがたくさんいる。その中で「自分がトップに行くのは相当大変だな」と思って。
そこからまたレスリングに戻ったんです。
―― まさに、原点回帰ですね。
そうですね。やっぱり自分にとって、格闘技が“好き”だっていう気持ちは、変わらなかったんです。
鶴屋怜(つるや・れい)
2002年6月22日 、千葉県柏市出身。THE BLACKBELT JAPAN所属。幼少期から柔術やレスリングに取り組み、高校時代にレスリング世界大会出場、団体戦全国優勝。アマチュアにてMMAのキャリアを経て、2021年2月にDEEP100にてプロデビュー。2022年12月PANCRASE330にて、第7代フライ級王者の猿飛流に勝利し、第8代キング・オブ・パンクラシストに輝く。MMA10勝無敗で2023年『ROAD TO UFC』に出場し、優勝。2024年6月にUFC303、デビュー戦にて勝利。プロキャリア11戦10勝1敗。
Photo: Rika Matsukawa
FC Machida Zelvia's Souma Yuki: "Don't be afraid of challenges, enjoy the differences" - Moving forward with determination
FC Machida Zelvia's Yuki Souma: "The doubts and suffering are all for the sake of moving forward"
FC Machida Zelvia's "Soma Yuki" "If the ball goes to this player, something will happen" - The belief of this unorthodox dribbler

Ayumi Kaihori: "Women's soccer is a place where everyone can be the protagonist" - A place where everyone can get involved freely. This is what the WE League is aiming for now.

Beyond the world's best. Ayumi Kaihori talks about passing on the baton of Japanese women's soccer
