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史上最年少の世界ランク1位の小田凱人が敗戦から学んだこと、そして次世代に思うこととは?

2025年1月オーストラリア・メルボルンで開催された全豪オープンテニスにおいて、車いす男子シングルスに出場した世界ランク1位の小田凱人選手は、決勝でまさかの敗退を喫した。小田が敗戦から何を経験し、これからのテニス人生をどう切り拓くのかその未来を語る。※トップ画像出典/Getty Images

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2025全豪オープン敗退がもたらすもの

小田にとってはまさかの敗戦だった。準決勝まではパーフェクトな試合を続けており、観客の誰一人として小田の全豪連覇を疑うものはいなかった。
しかし決勝だけは様子が違った。客席の応援に最高のショットで応えるが、それでも波に乗れない。2本目3本目が続かないのだ。相手の経験値が勝ったのか過信によるゆるみがあったのか、気が付けばストレート負け、決勝の幕はあっけなく閉じた。敗戦の余韻が会場を包む中、ファンは戸惑いながらも熱戦を称えた。
小田にいったい何が起きていたのか、この敗戦は何をもたらし、どこまで強くなれるのだろうか。小田は決勝について「こういう負け方をするとやっぱり悔しい。相手のアルフィー・ヒューエット選手とは何度も対戦しているが、こういった形のストレート負けは初めてでやはり悔しいが、次に向けて頑張りたい」と語り、「決勝に残る事が当たり前だったが、1年の初めの大会で彼に負けた。これから1年間、競争という形で高めあって行けたらという気持ちです」とたんたんと冷静に自身の気持ちを述べた。
またオフについては、「海外にいる時も日本にいる時も、オンとオフは完全に切り替えて生活している。オフではラケットを一切握らない。車いすプレーの感覚を、等一切考えずに乗っている。がっつりと私生活とテニスを分けて生活しています」と小田は語る。敗戦を引きずらず、前向きな言葉を語る小田の姿勢にはこの切り替えのうまさがあるのかもしれない。

状況が一変した決勝。今後のプレイスタイルへの影響は…

小田は、「今大会は絶好調だった。準決勝は特になにをしてもボールが入るなという感じだった」と話す。だが決勝では状況が一変。「決勝では全く入らなかった。自分のキャリアの中でもあまりないぐらい酷かった。久々にテニスって難しいなと感じたし、そういうことを感じずにここしばらく試合をしていたので、このタイミングで難しいと感じられたことはよかった」と、苦しかった試合を前向きに振り返った。「相手も試行錯誤してプレースタイルを変えている中で、自分も精度を高めて対応してきたが、これだというショットがなかった。これまで苦戦してきたであろう相手の気持ちがちょっと分かった」と笑顔で話す。
今後については、「こういう試合が続くのなら自分も何かスタイルを変えようと考えてしまうが、ここで変えてしまうと、自分の良さやアイデンティティーが消えてしまうような気もする。勝ったらこうする負けたらこうするではなく、それにとらわれず自分を高めていく事の方が大切だと思う」と、自分のスタイルを大切にしていくと語った。
さらに自身のキャリアについても、「ああ、もう今日は練習か。と思うようになったらテニスを辞めたいと思う。自分のテニスを物足りないと感じているうちはいける所まで行きたい。でも嫌いになったらすぐやめたい」とここでも笑顔で語る。オンオフの切り替えに通じた考え方のようだ。

積み上げた経験と現在地。そして目的地は…

17歳1ヵ月2日で史上最年少の世界ランク1位を確定させた小田は、自身の成長について「自分が憧れていた選手と年間を通して接することにより、自分の成長スピードは半端ないぐらい上がったと思う。そして優勝したり1位になったりすると嬉しくて、また勝ちたくなる。自分は自身のことをスポーツ選手とは思っていない。好きな事だけをやって来た。今キャリアが終わったらやはり満足できない。それが自分の今いる位置。ここまで順調にきたが、まだ足りていない」と語る。
今後目指す所については、「流れに身を任せて、どこに辿り着くか。4大大会制覇や勝つ事でなく、単純に自分を魅せたい、自分を表現したい。それが最終的にどうなるか、想像もつかない所まで行きたい」と真剣に語った。
18歳の小田は次世代に向けて「若い人にはもっと自分をアピールして欲しい。自分がその火付け役になりたい」とエールを送る。「だからプレッシャーは何もない。ごまかさずに自分のいいと思った事を伝えたい。それが自分の年齢でできる表現の仕方だと思う。新しい色で勝負していきたい。それがテニスでもコート以外でも通じる事だと思う」と、自分の思いを語った。
最後に小田は、「今までのテニス人生の中でも、これだというものはあまりない。ベストショットというレベルの事を自分の中では成しえていない。もっといいショットが打てるはずだという気持ちがある」と更なる高みへ挑戦する気持ちを述べた。
自分だけのスタイルで車いすを武器に切り開く未来。思い描くベストショットは果てしなく遠い。だからこそ、小田はこれからも輝き続けるのだろう。


『DAZN #2 : 小田凱人の"未来"』(2025年1月31日配信)より
*The information in this article is current as of the time of publication.