
派手さよりも本質を――“笠松将”が語る「線で描く人生と自分のスタイル」とは
インタビュー最終話では、笠松将が語る自身の思考やスタイルの源に迫る。「派手さはいらない」と語る彼が憧れるのは、目立つスターではなく、“縁の下の力持ち”としてチームを支えるサッカー選手・ダヴィド・アラバのような存在だ。笠松もまた、目立つよりも“線”で物事を捉え、自分のスタイルで進むことを大切にしている。その哲学は、サッカー選手や俳優業だけでなく、日常生活のささやかな喜びにもつながっている。ハリウッドや日本、どの舞台でも変わらないスタンスで挑み続ける笠松が描く、人生の“線”とは?※メイン画像:撮影/松川李香(ヒゲ企画)

「派手さはいらない―線で描く人生と自分のスタイル」

――笠松さんの思考やスタイルは、どんなところから影響を受けているんでしょうか?
僕の思考のベースになっているのは、スポーツ、お笑い、音楽ですね。正直、俳優業界のことはあまり詳しくないですし、海外や日本の俳優もほとんど知らないんです。作品も多くは見れていないので、僕にとってのヒーローはずっとスポーツ選手なんですよ。例えば、ロナウド、ジダン、ベッカム、メッシ、ネイマールみたいなスーパースターたちにずっと憧れてきました。
でも、最近はそういう目立つスターというより、“アラバ的な存在”がかっこいいなと思うようになりました。アラバって、知る人ぞ知る天才的なサッカー選手なんですけど、派手さはないけど、戦術理解度や状況判断能力が抜群で、チームにとって不可欠な存在なんです。名将たちが彼を中心にチームを組み立てるくらいなんですよね。それでいて、自分を派手に見せないんですよ。気づいてない人もいるくらい。そういうのが本当にかっこいいなって思うんです。僕もどれだけ目立たずに、自分のやりたい方向に物事を進められるかっていうのを楽しんでます。例えば、家族や友人、仕事仲間、ファンの人たちとケタケタ笑いながら『誰も気づいてないけど、やっぱ俺たち最高だね。おまえ偽ヒールじゃん』って生きていける。それが僕にとって人生の醍醐味なんです。
――選手の“線”でのストーリーを見るのが楽しいとおっしゃっていましたね。
そうなんです。例えばエムバペ。今ちょっと調子悪いですけど、これを乗り越えて時代に名前を刻んでくれると思います。選手を点じゃなくて“線”で見ると本当に面白いんですよね。例えばベンゼマ。ロナウドの陰に隠れたスターと思いきや、彼がいなくなっても全然活躍する。周りに気を遣いながらも、自分がスターになれる。そのバランスがすごいなと思います。
俳優業でも同じなんですよね。自分の役割を理解して、それをどう進めていくかが大事だと思います。だから僕は派手に目立つ必要はないんです。その中でどう自分のポジションを見つけて、楽しみながらやっていくか。それが僕のスタイルですね。
エムバペに学ぶ――夢を叶えた先の燃え尽き症候群とは?

――笠松さんは、才能ある人が途中で失速してしまう現象についてどうお考えですか?
スポーツもエンタメも、本質的には同じだと思うんです。結局、本当にその本質が好きかどうかが試されるんじゃないかなと。例えばサッカー選手で言えば、エムバペみたいに夢を叶えた後、燃え尽き症候群になってしまうことがある。彼の場合、レアル・マドリードに行くことで夢が叶ったけど、その後の頑張り方がわからなくなったんじゃないかなって感じますね。
――夢を叶えた後に訪れる“燃え尽き症候群”、どうすれば克服できると思いますか?
それが難しいところなんですよね。特にトップ選手だと、夢が叶ったことで自分の中の目標が曖昧になってしまうことが多い。だからこそ、自分の中に新しい目標を作るか、何か違うモチベーションを探す必要があるんじゃないかなと思います。一方で、ビジネス志向が強い選手だったら、そこでさらにパフォーマンスを上げて、自分の価値を高める方向に進むと思うんです。このバランスが本当に難しい。“金に溺れる”とかそういうことじゃなくて、結局は自分の“結果の出し方”や“頑張り方”を見失うことが、挫折の本質なんだと思います。

――俳優にも同じようなことが起こりますか?
起こりますよ。俳優でも、『セリフの覚え方がわからなくなった』とか、『前はこれくらいでできてたのに、今はもうダメだ』って話を聞くことがあります。流れに身を任せて登ってきた人ほど、夢を叶えた後、どうすればいいのかわからなくなるんですよね。
――そうならないためには、どんな準備が必要だと思いますか?
結局、日々のメンテナンスや“洗車”が何よりも大事なんです。小さな積み重ねが最後の大きな舞台で力になる。スポーツでもエンタメでも同じで、才能だけでは続けられない。日々、自分の“頑張り方”を忘れないことが、一番大切だと思います。
――日々のメンテナンスや洗車にあたる行動は、笠松さんにとっては何ですか?
僕の場合は、台本を丁寧に読むことや現場での姿勢を崩さないことですかね。やっぱり自分にとって当たり前のことを当たり前にやり続けるのが基本だと思っています。
――いろんな人を見てきたと思いますが、生き残る人とドロップアウトする人の違いは、どこにあると思いますか?
サッカーでも何でもそうだけど、生き残る人は生き残るし、ダメになる人はドロップアウトしていく。それは絶対的なことだと思います。でも、一瞬でも“天才”って呼ばれるのは本当にすごいこと。だってサッカーをしている人が世界中で何人いると思います?その中で“天才”と呼ばれるのは、ほんの一握りしかいないんですよね。こんなにサッカーの話ばっかりしてて大丈夫ですかね?
――全然問題ないです。読者もきっと楽しんでくれると思います。
そうなら良かったです。
「ハリウッドか日本か――俳優としてのスタンスはどこにある?」
――俳優として、日本やハリウッドなど幅広く活動されていますが、これからの活動について何か考えていますか?
正直、ハリウッドに行きたいとか、日本を軸にしたいとか、そういう明確なこだわりはないんです。ターゲットが全然違うっていうのもあるし。
――具体的には、どういう違いを感じますか?
例えば、ハリウッド作品に出演した時は、そりゃあテンション上がりましたよ。『俺、すごいじゃん!』って鼻も高くなるし、調子にも乗ります。でも、よく考えると、うちのおじいちゃんやおばあちゃんはその作品を見ないし、周りで知ってる人もいなかったりする。それに気づくと、『ああ、こんなもんか』って冷静になるんです。
――逆に日本での活動にはどんな魅力がありますか?
日本のドラマや映画に出ると、家族がめちゃくちゃ喜ぶんですよね。それってすごく幸せなことだなって思うんです。だから、どこで活動するとか、ハリウッドがどうとか日本がどうとかっていうより、“俳優として目の前の仕事をどうやるか”が大事なんだと思います。お客さんがどこにいるかの違いだけで、やるべきことは変わらないんですよね。
――ハリウッドへの独特な向き合い方があると聞きましたが?
うちの事務所では、ハリウッドのことを“USローカル”って呼ぶんですよ。『USローカルの仕事来たよ』みたいな感じで。大きく構えないことで、肩の力が抜けるんですよね。そうすると、海外の作品でも、日本の深夜2時半から放送されるような超ローカルなドラマでも、どっちも同じようにやれる。これを同時にやってると、『俺、何やってんだろう?』って笑っちゃうこともありますけど、それがすごく楽しいです。

――どんな作品でも、俳優としての向き合い方は変わらない?
でも、サッカー選手だって同じですよ。今日バルセロナと戦ったと思えば、数日後には最下位のチームと対戦することもある。それがプロだし、それが普通。だから僕も、大きい作品だろうと、小さい作品だろうと、全部やる。それが俳優としてのスタンスですね。
――今後のキャリアについてどんなイメージをお持ちですか?
たかが10何年のキャリアですよ。そんなに大層なビジョンはないんです。現役としてやり続けるかどうかも、正直あんまり考えてなくて。監督業とかも絶対無理ですね。興味がないし、やるつもりもないです。プロデュースとか企画には興味があります。主演をやる時に『この原作どう思いますか?』とか、台本ができる前から話し合うのって、もう半分プロデューサーみたいなもので、最高じゃないですか。そういう根っこの部分に関わるのは面白いし、自分に向いてると思うし、気持ちも入ると思うんですよね。
――俳優として生涯現役、というわけではないんですか?
全然、違う仕事をやる可能性もありますね。もし仕事がなくなったら、俳優をやれないし。例えば、バイトしてまたオーディションを受け直すとか、そういうところまでの執着はないかもしれないですね。ただ、だからといってYouTubeで暴露話とかは絶対にしませんよ。悲しいじゃないですか、そんなの。しかも、大した裏話も持ってないし。
笠松 将(かさまつ・しょう)
1992年生まれ、愛知県出身。2013年から本格的に俳優として活動。2020年『花と雨』で長編映画初主演を果たし、近作ではドラマ『君と世界が終わる日に(Hulu)』、配信作品『全裸監督2(Netflix)』、主演映画『リング・ワンダリング』、日米合作『TOKYO VICE(HBO max)』、『ガンニバル(Disney+)』などに出演。2022年、CAAとの契約を発表し、国内外で活躍する。2023年、個人事務所設立。
Hair&make:Ryo Matsuda
Stylist:Masahiro Hiramatsu
Photo: Rika Matsukawa
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