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川崎フロンターレ“中村憲剛”39歳で経験した大怪我から大復帰を遂げるまでの301日【後編】

Kawasaki Frontale's bandiera Nakamura Kengo retired at the end of the 2020 season. The streaming service DAZN will be specially re-streaming "RESTART: Nakamura Kengo - 301 Days to Return," a documentary that closely follows Nakamura from his serious injury to his recovery, which was released ahead of his retirement match on December 14, 2024. The show looks back with the 39-year-old man on the 301-day journey to recovery. *Top image source/Getty Images

Icon %e5%90%8d%e7%a7%b0%e6%9c%aa%e8%a8%ad%e5%ae%9a%e3%81%ae%e3%82%a2%e3%83%bc%e3%83%88%e3%83%af%e3%83%bc%e3%82%af 1King Gear Editorial Department Entertainment Team | 2025/01/25

「きっと何か意味がある」長く続くリハビリへ前向きに取り組む日々

前十字靭帯の再建手術を受け、中村選手は本格的なリハビリをスタートさせた。専属のリハビリトレーナーには、2年前に川崎フロンターレへ加わったフィジオセラピストの髙木祥氏が就いた。髙木トレーナーは、これまでにも前十字靭帯損傷を負った選手のリハビリを担当したことはあるが、39歳というベテラン選手は初めてだと言う。「時間はかかるが、必ず復帰できる。焦らずしっかりとリハビリをしていかなくてはならない」と話した。

続くリハビリの日々にも腐らず中村選手は「この歳になってこういう機会が与えられたのは、何か意味があるのではないかと捉えている。怪我をしたときから、とにかく何事も前向きにやろうと決めていた」と語る。それは、長いサッカー人生のなかで、ネガティブな気持ちで過ごしても良いことはひとつもないと知っているからだ。どうやって自分自身をしっかり保つか、いつも考えていた。

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Source: Getty Images

トレーナーと二人三脚で進んだ復帰への道

年が明け、左膝は違和感もなく、日常生活を問題なく過ごせるレベルにまで回復していた。1月19日、負傷より78日目にはチームとともにキャンプインし、別メニューで調整を始める。足踏みを行うトレーニングからその場でのジョギング、キャンプイン7日目にはジョギングで走れるように。2月中旬にはボールを蹴る許可が出た。本人も驚くほどの大きな進歩だった。

小学校1年生でサッカーを始めて以来、こんなにも長い間ボールを蹴らない期間はなかった。「うれしい以外に言葉はありません。最初は少し違和感があった。でも、離れていた時間よりボールを蹴っていた時間の方がはるかに長いので、すぐに感覚は戻りました」と中村選手。髙木トレーナーも「ボールを蹴ったときは、一番うれしそうでしたね」と語る。怪我をしてからおよそ100日。ここまでの道のりを二人三脚で、ときにはケンカもしながらお互いを信頼し、日々できることを取り組んできた。あっという間の100日間だった。

未曾有の事態と引かない膝の痛みに大きくなる不安と焦り

2020年、中村選手にとって27年目のJリーグが開幕した。しかし、1節を終えた時点で新型コロナウイルスの感染拡大によりJリーグは一時中断となる。

時を同じくして、中村選手にも試練が待ち受けていた。術後から順調に回復していた左膝が3月に入ってから突然痛みだし、これまでこなしてきたリハビリのメニューが、全くできなくなった。リハビリ生活で突き当たった初めての壁。さらに追い打ちをかけるように緊急事態宣言が発令され、トレーナーとともに行うリハビリやトレーニングが一切できなくなった。

不安と焦りばかりが大きくなっていく中村選手を支えたのは、やはり髙木トレーナーだった。中村選手は「(リハビリメニューの)これができた、これはできないみたいなのを送って、あのときはほぼ毎日連絡を取っていました。それだけが生命線だった。本当に助けられました」と感謝を口にする。痛みが引かず肉体的にも精神的にも追い込まれていく中村選手に、髙木トレーナーは辛抱強く向き合い続けた。

膝の痛みが出てからおよそ1ヵ月半、痛みはほとんど感じなくなっていた。負傷から245日目の7月4日、ついにチーム練習へ合流。リーグも再開し、中村選手はその後も順調に調子を上げ、ホーム等々力競技場で行われる8月29日の清水エスパレス戦が復帰試合に決まった。

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大怪我を乗り越え、ようやくたどり着いた復帰の日

ついに、その日がやってきた。あの負傷からおよそ10ヵ月、301日目。等々力競技場に集まるサポーターは、背番号14が戻ってくるこのときを待ち望んでいた。中村選手が等々力競技場に姿を現すと、サポーターからは惜しみない拍手が送られた。

復帰試合はベンチからのスタート、黙々と体を動かし出番を待ち続ける。川崎フロンターレに3点目が入った直後、待ちわびた瞬間がやってきた。ピッチに入る直前、中村選手は左膝をさすりながら「頼む、守ってください」と願掛けをした。大きな怪我を乗り越え10ヵ月ぶりのピッチ。そこにはいつもと変わらない“中村憲剛”の姿があった。そして迎えた85分、相手ディフェンスラインのパスをカットし、負傷した左足で芸術的なループシュートを決める。等々力にサッカーの神が宿った瞬間だった。中村選手は「自分が点を取るとは思っていなかった。これまでの日々を髙木トレーナーと2人で乗り越えてきたので、神様がご褒美をくれたのだと思う」と振り返る。髙木トレーナーも「まさか復帰戦でゴールを決めるなんて、さすがです。本当にうれしかったですね」と目を細めた。

301日ぶりの出場で自らの復活に花を添えるゴール。忘れられない17分間になった。

多くの人に勇気を与えたサッカー選手としてのリスタート

試合終了後、中村選手は、左膝に両手を添え「よくやったな、あの日からここまで」と労いの言葉をかけたという。サッカー選手“中村憲剛”にとっても大きな一日だったと復帰戦を振り返った。最後に、この301日はどんな日々だったかと問われると「あきらめずリハビリを続けて良かった。頑張っていれば必ず良いことがある。この年齢でもしっかり復帰できるという前例を作りたかった。自分ができたのだから、皆さんも必ずできます」と答えた。多くの人に勇気を与えた中村選手。40歳を迎える年、サッカー人生のリスタートを切った瞬間だった。

DAZN『【12.14引退試合】RESTART 中村憲剛‐帰還までの301日‐(特別再配信)より

*The information in this article has been edited and distributed based on the content at the time of broadcast.