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フェアプレー促進か、試合の混乱かー“ブルーカード”導入でサッカーはどう変わるのか?

サッカーのルールは時代とともに進化し続けている。「VAR(ビデオアシスタントレフェリー)」や「ゴールラインテクノロジー」の導入によって、判定の精度が向上し、試合の公正性は確保されつつある。しかし、それでもなお、選手のラフプレーや審判への異議、試合遅延といった問題は解決されていない。そこで今、新たに導入が検討されているのが 「ブルーカード」だ。これは「シンビン(Sin Bin)」と呼ばれる一時的退場制度で、一定の反則を犯した選手に10分間の退場処分を科すというもの。すでにラグビーやアイスホッケーでは採用されており、サッカーでも試験的導入が進められている。果たして、このルールはフェアプレーを促進するのか? それとも、試合の混乱を招くのか? そのメリットとデメリットを詳しく考察する。※トップ画像/PhotoAC

IconIppei Ippei | 2025/02/19

ブルーカードとは?その仕組みと適用基準

「ブルーカード」は、従来のイエローカード(警告)とレッドカード(退場)の中間に位置する新たなカードとして提案されているルールだ。

適用されるケース

以下のような反則を犯した場合、選手はブルーカード を提示され10分間ピッチから離れることになる。

・審判への侮辱的な態度や異議(不必要な抗議や挑発行為)

・危険なカウンター阻止のファウル(故意にチャンスを潰す戦術的ファウル)

このルールのポイントは、一時的退場によって“数的不利”が生じることだ。従来のイエローカードは警告にとどまり、レッドカードは試合からの完全退場となるが、ブルーカードは試合の流れを大きく変えながらも、選手に再びプレーの機会を与えるという新たな要素を持つのだ。


また、ブルーカードを2枚受けた場合やブルーカードとイエローカードを1枚ずつの計2枚受けた場合は退場処分(レッドカードと同じ扱い)となるため、反則の累積によるペナルティも考慮されているようだ。

ブルーカード導入のメリットとは?

ブルーカード導入によるメリットとして、以下の点が挙げられる。

フェアプレーの促進

まずラフプレーや意図的な試合遅延、審判への異議が減少すると予想されるだろう。

ラグビーでは、審判の判断に対する抗議がほとんどないが、これはシンビン制度が定着し、異議を唱えれば即退場となるためだといえる。サッカーでも、同様の効果が期待できるということだ。

試合の公平性向上

悪質なカウンター阻止ファウル(戦術的ファウル)に対して、これまでのイエローカードでは十分な抑止力がなかった。しかしブルーカードによって、一時的に数的不利になる ため、試合のバランスが保たれ、よりクリーンなプレーが促される可能性があるだろう。

厳しすぎず、緩すぎない新たな制裁

イエローカードでは軽すぎ、レッドカードでは重すぎる場面がサッカーには多々あるのだ。

ブルーカードは、その中間的な処分として機能し、審判にとっても新たな判断基準となるといえる。

ブルーカード導入のデメリットとは?

メリットをあげれば、非常に有用なルールといえそうだが、このルールには大きな懸念点もあるのだ。

試合の流れが分断される

サッカーの醍醐味のひとつに「途切れのない“流れのあるプレー”」という特徴があげられるだろう。

つまりブルーカードによって 一時的な数的不利が生じることで、試合のテンポが乱れる可能性があるわけだ。

特に退場した選手が戻るタイミングが試合の流れを大きく左右することが懸念される。

守備的な試合展開が増える可能性

チーム全体の戦術にも影響を与えることも考えられる。

例えばこの“10分間の数的不利”を耐え抜くために、チームが極端に守備を固める可能性があるのだ。そうなると、試合が消極的な展開になり、観客にとって退屈な時間帯が増えてしまう恐れがある。

VARと組み合わせることで試合時間が長くなる

ブルーカードの判定をVARで確認する場面が増えると、試合時間がさらに長くなることも考えられる。

すでにVARの介入によって試合時間は100分を超えることも珍しくなく、新ルール導入によるさらなる影響が懸念されるわけだ。

指導者や選手の意見は?

元リヴァプールの監督のユルゲン・クロップ氏をはじめとする多くの指導者は、「ルールが複雑になりすぎる」としてこのルールに慎重な姿勢を見せている。


一方で、サッカーにおける「戦術的ファウル」への対応が求められる中、先に述べたようにブルーカードは「試合の公正性を向上させる手段になり得る」との意見もある。


つまり業界の中でも意見が大きく分かれるルールなのだ。

サッカーの文化への影響―「感情のスポーツ」としての側面をどう扱うか?

サッカーは感情がプレーに直結するスポーツともいえる。選手同士の激しいぶつかり合いや、審判への異議、監督のアグレッシブな指示もまた醍醐味のひとつだ。

しかしブルーカードの導入によって、審判への異議が過度に制限されれば、サッカーの持つ「熱量」や「ドラマ性」 が失われる可能性がある。

例えば、ワールドカップ決勝のような大一番で、主審の判定に異議を唱えた選手が 「ブルーカードで10分間退場」 となった場合、その判定が試合の行方を大きく左右する可能性もある。

サッカーにおける「情熱」と「フェアプレー」のバランスをどう取るか、ここも重要な論点になるだろう。

ブルーカードはサッカーに定着するのか?

現在、イングランドFAカップなどで試験的に導入されているが、FIFAの公式大会で実施されるかどうかはまだ決まっていない。

このルールが定着するかどうかは、試合の流れをどれだけ損なわずに、公平性を保てるか にかかっている。ブルーカードは、サッカーにとって「進化」なのか? それとも「改悪」なのか? 今後の議論と試験運用の結果に引き続き注目したいところだ。


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