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50年続いた赤字から一転、業績好調の千葉ロッテマリーンズが徹底した「5つの取組み」とは

若者の野球離れや娯楽の多様化が進む昨今。千葉県を本拠地とするプロ野球チーム、千葉ロッテマリーンズは2023年の合計観客動員数が過去最多を記録。業績好調の要因となったのは、徹底したマーケティングとブランドマネジメントだった。「FRONTIER OF SPORTS」第9回は「千葉ロッテマリーンズ 20-30代ファンの集客戦略」をテーマとして、代表取締役自らがその舞台裏を説明した。※トップ画像出典/Getty Images

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黒字を続けるために思い出したのは、過去の不名誉な記録

2018年、千葉ロッテマリーンズは転機を迎えた。球団経営50年目にして初の黒字化を達成したのだ。株式会社千葉ロッテマリーンズ代表取締役社長の高坂俊介氏は、その背景には変革を推進したマーケティング戦略があったと言う。

赤字続きは負のスパイラルだ。毎年の経営を気にするあまり、先を見据えることができなかった。初の黒字化を遂げ、やっと「中長的な視点を持った経営」を目指せるようになった。その最初に始めたのが、自分たちが持つ価値の再確認。そこで思い出したのが1998年、今もプロ野球ワーストである、18連敗という不名誉な記録を作ってしまったときの出来事だ。

高坂氏は「あの時、マリーンズのファンが負け続ける選手たちを鼓舞するために『俺たちがついている』という横断幕を作ってくれたんです」と回顧する。千葉ロッテマリーンズが大切にするべきなのは、選手とファンが互いに持つ高い熱量、そして、この関係性だと考えた。その上で「パリーグで常に優勝争いをできる球団にする」と決めた。

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Source: Getty Images

その後、球団が持つ行動データを徹底分析。3つのペルソナを定めた。その中でも重要視したのが「アクティブアラサー」と呼ばれる層だ。グループで来場して、盛り上がる独身の20〜30代。元々千葉ロッテマリーンズのファンが作り出した一体感のある応援スタイルは、この世代に響きやすかった。ペルソナで顧客を定め、次に取り組んだのがブランドマネジメントだ。第一に置いたことは球団の「世界観の統一」。そのために、各部門で独自に判断することが多かったブランド管理をマーケティング部門で背負うことにした。「これまではまとまりがあるようでなかったんです。仕切る部門が作られたことによって、現場からも『ありがたい』と声が上がりました」と高坂氏は話す。

業績アップにつながった「5つの取り組み」とは

ブランドマネジメントにおいては、5つの取り組みを行った。

1つ目が「チームカラーの徹底」。これまでも漠然とした方向は設定されていたが、徹底はできていなかった。「今は白、黒、グレーに定めました」と高坂氏。カラーを絞って展開したことで、ユニフォームなどグッズの売り上げも伸びたそうだ。世界観を伝えることが、事業収益にプラスの効果をもたらした。

2つ目は「スタジアム演出の見直し」だ。野球は優勝するチームでも勝率は6割程度であることから、以前は「勝っても負けても楽しかった」と思える演出を考えていた。そこを「演出はチームが勝つためにファンが後押しするもの」と設定。「相手がタイムを取ったら煽るようにしたり、選手が試合前にグラウンドへ出る時に高揚感が出るようにしたり」音楽やビジョンを変更したと言う。また野球は試合中、間が生まれる。その際にも映像を使ったり、ホームランを打ったときには照明を変更したりするなど、工夫を凝らした。結果、ファンに楽しんでもらえるゲーム作りが生まれた。

3つ目はグッズや飲食における「チームコンテンツのフル活用」だ。飲食では、選手のコラボ商品を多く製作。「若い選手で女性ファンが多ければ、その方々が好きそうなメニューと選手が好きなものを組み合わせました」と各選手のファンを分析したそうだ。その結果、選手それぞれの限定感を作り上げ、売り上げにつなげた。

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出典/photoAC

4つ目は「SNSと広告運用」世界観を発信するために活用した。特にYouTubeでは裏側をテーマに配信。選手が信頼する広報が撮影することで、素の選手の姿を届けた。広告でも商品の直接的な訴求はせず「それよりも世界観を伝えました」と高坂氏。その方が潜在的な感覚に訴えることができると言う。結果、広告を通じてチケットやグッズが以前よりも多く購入されるようになった。

5つ目は「象徴的なイベント」だ。夏の名物イベントである「ブラックサマーウィーク」では、アクティブアラサーをターゲットとして「初観戦の人も楽しめるフェス感」をコンセプトに展開。食べ物や演出などで、野球だけではない楽しみを提供した。

「自分たちの足元から見つめ直すこと」業績アップに欠かせない土台作り

このような徹底された中長期戦略に沿った取り組みが功を奏し、2023年の過去最高業績記録につながった。チケットの購入割合も、2019年は40代がトップだった一方、2023年は20代がトップになった。マーケティングは着実に成果へつながっている。最後に高坂氏は「球団やクラブなら、自分たちが持つ価値は何か。企業なら自分たちが作ってきた事業は何か。それを支えるファンや顧客はどんな人か。我々は結果として20〜30代に向き合う必要があっただけ。ターゲットを先に定めるのではなく、自分たちの足元から見つめ直すことが大事」と、業績アップの裏側を説明。千葉ロッテマリーンズが通ったこの過程は、どんなビジネスマンであっても見習える姿と言えるだろう。

『FRONTIER OF SPORTS』フロスポ#9 千葉ロッテマリーンズ 20-30代ファンの集客戦略より
配信日:2024年8月30日(金)

※記事内の情報は放送当時の内容を元に編集して配信しています