
バスケットボール選手"井上宗一郎”「見てる人は見てるよ」10代で刻まれた“ひと言”が、今も支えになっている
越谷アルファーズに所属するBリーグ3年目の井上宗一郎。201cmの長身と器用さを活かし、アウトサイドでもインサイドでも存在感を放つ若きビッグマンだが、彼がプロとして大切にしているのは、バスケの技術だけではない。中学生の頃、バスケット関係者からかけられた「見てる人は見てるよ」という言葉。その“ひと言”が今でも自分の軸になっているという。「誰も見ていないときこそ、自分が試される」そう語る井上宗一郎が、プロとしてどう自分と向き合い、どんな未来を描いているのか。※トップ画像撮影/松川李香(ヒゲ企画)

誰も見ていない場所で、何ができるか。
――これまでの人生で、特に影響を受けた「言葉」ってありますか?
中学生の頃ですね。当時、日本代表のビデオコーディネーターをされていた方から言われた言葉が、今でも自分の中でずっと残っています。
――どんな言葉だったんですか?
『見てる人は見てるよ』って。…すごくシンプルだけど、深い言葉ですよね。たとえば、誰もいないところでの努力とか、チームの中で“自分だけ頑張ってるかも”って感じる時。その方は、『そういう姿勢こそが本当の自分の価値になるんだ』って言ってくれたんです。
――まさに、誰も見ていない時こそ“本当の自分”が出る。
そうなんです。あの言葉を聞いた瞬間、自分の中で何かが切り替わったのを覚えています。今でも大切にしている、自分の“軸”のひとつですね。不思議と、大人になってからの言葉って、あまり記憶に残ってないんですよ(笑)。嬉しい言葉ももちろんありますけど…やっぱりあの時期の、10代の頃の一言が、今でも原動力になっている気がします。だからこそ、自分も誰かにとって“そういう一言”を与えられる存在になりたいと思っています。
「自分を信じて、挑戦を選んだ」──越谷アルファーズで描く“成長の物語”
――越谷アルファーズに移籍された背景について、改めて聞かせてください。
大きな理由は、自分をもっとレベルアップさせたいという思いと、安齋竜三さんのもとでプレーしたいという気持ちからです。それに、アルファーズは『B1昇格』という明確な目標を掲げています。正直、今の自分の立場でBリーグ優勝を狙うのは現実的ではないと感じましたが、B1昇格というチャレンジは非常に大変でありながら、達成への意欲をかき立てるものでした。だから、その舞台で戦いたいと思ったんです。
――B1、B2と両リーグを経験して、あらためて感じた違いは?
うーん…やっぱり、『すべてのレベルが違う』と実感しました。B2も確実にレベルアップして強くなっているんですが、B1はさらにその先の厳しさがあります。戻ってきて改めて、『やっぱりB1は別物だ』と感じました。
――井上選手のプレーといえば、3ポイントシュートやサイズを活かしたインサイド。プレイヤーとして、最も大事にしていることは何ですか?
やっぱり、一番大事なのは『自信をなくさないこと』ですね。技術ももちろん重要ですが、最後の勝負を分けるのは気持ちの部分だと思っています。自信を持ち続けること、それが自分にとっての最大の強みです。
――自信が結果に影響した、印象的な経験はありますか?
正直、たくさんあります。特に、実力が拮抗したチームとの試合では、『勝ちたい』という気持ちがプレーにダイレクトに反映されるんですよね。結果を分けたのは、スキル以上に“気持ち”であったと感じます。僕だけでなく、他の選手も同じ経験をしていると思います。
越谷アルファーズが大切にする“今”と“チーム力”の価値
――バスケットボールは交代が自由で、登録選手の数も多く、誰もが試合に絡むチャンスがあるスポーツです。そんな中で、「チームとしての目線」を揃えるには、どんな意識を持っていますか?
やっぱり、毎年チームの顔ぶれは変わっていくものじゃないですか。60試合という長いシーズンの中で、「今このメンバーだからこそできること」に集中するのが一番大事だと思ってます。どれだけ強いチームでも、その“今”を大事にできなければ意味がない。だからこそ、普段からのコミュニケーションは本当に大切です。オンコートのプレーだけじゃなく、オフの時間をどう過ごすか――そこもチーム力に直結してくる部分だと思います。
――越谷アルファーズのチームカラーについて、他のチームと比べて感じる特徴はありますか?
今年のアルファーズは、チーム全体の年齢層がぐっと若返ったんです。だけど、その一方で、40代のベテラン選手もいて。そのバランスが絶妙なんですよね。若手はフレッシュなエネルギーを出す。ベテランはプレーと人間力で支える。その両方が自然に混ざり合って、すごくいい空気感ができていると思います。僕自身、年齢も立場も違う選手から刺激をもらうことが多くて。お互いをリスペクトしながら学び合える環境って、簡単に作れるものじゃないですし、アルファーズの大きな強みになってると感じています。
「これはもう“仕事”だからこそ」──3年目の今、強く感じる“プロ意識”
──井上選手は今年でBリーグ3年目。これまでのキャリアを一言で表すとしたら?
そうですね…やっぱり「プロフェッショナル」という言葉が一番しっくりきます。学生時代は“好きだからやる”っていう感覚でしたけど、今はバスケットでお金をいただいている立場。つまりこれは、完全に「仕事」なんです。当然、そこには責任があるし、見てくれるファンの方々や、支えてくれる人たちへの“恩返し”という気持ちも常に持っています。単に得点を取るとか、いいプレーを見せるだけじゃない。試合での姿勢、振る舞い、言動すべてが「プロの振る舞い」として見られていることを意識しています。
──プロになってから、プレーの楽しさとともに、厳しさを感じる場面も多いと思います。そのバランスはどう取っていますか?
正直、難しいですけど…それでもやっぱり“楽しむ気持ち”は持ち続けたいなと思ってます。バスケットって、そもそもは「自分が好きで始めたこと」ですからね。どんなにハードでも、どんなに苦しい時でも、“楽しさ”を見失いたくはない。プロである以上、責任は当然ついてくるけど、その重みの中に「楽しみ方」を見つけられる選手でいたいと思ってます。
──試合で勝った翌週と、負けた翌週。気持ちの切り替え方はどうしていますか?
うちのチームって、そんなに“連勝するタイプ”じゃないんですよ(笑)。だからこそ、勝ったときでも浮かれすぎず、負けたときでも落ち込みすぎず。なるべく感情をフラットに保つことを意識しています。とはいえ、やっぱり人間なので気が緩んじゃうこともあります(笑)。でもそれも含めて、いまの自分の課題ですね。勝敗で一喜一憂しないメンタルの安定感――これも“プロフェッショナル”として磨いていきたい部分です。
バスケだけは、誰にも負けたくない
――日々のパフォーマンス向上のために、チーム練習以外で意識していることはありますか?
はい。基本的に毎日、体育館に来るようにしています。バスケの練習だけでなく、ウエイトトレーニングやフットワーク、シューティングも含めて、なるべく自分の身体と向き合う時間をしっかり取るようにしています。
――それは昔からの習慣ですか?
そうですね。高校時代、上級生が当たり前のように自主練に取り組んでいた姿を見てきたので、自然と自分の中にもそのスタンスが染みついている感覚です。あの背中を見て育ったからこそ、今も「やるのが普通」って思えるんだと思います。
――バスケ以外でもストイックに取り組んでいるような印象ですが、自分ではどう思いますか?
うーん、そこまでストイックだとは思ってないですよ(笑)。自分では本当に“普通”のつもりなんです。ただ、バスケだけは絶対に負けたくないっていう気持ちが、どこかにあるんですよね。だから、やることが“習慣”になっているだけで。自然と体が動いてる感覚に近いかもしれません。
井上宗一郎(いのうえ・そういちろう)
1999年5月7日生まれ、東京都出身。バスケットボール選手。越谷アルファーズ所属でポジションはPF。梅丘中学校、福岡大附大濠高校に進学し、高校3年でインターハイ優勝、ウインターカップで準優勝を経験。筑波大学進学後、2020年に第72回全日本大学バスケットボール選手権(インカレ)で優勝、翌2021年にインカレ準優勝、自身はBEST5を受賞。同年に三遠ネオフェニックス(B1)に特別指定選手として契約、2022年にサンロッカーズ渋谷(B1)に移籍した。そして同年6月に日本代表に初選出、翌月に代表デビューを果たす。2023年に越谷アルファーズに移籍。2024年にFIBAアジアカップ2025予選 Window1 男子日本代表メンバーにも選出されている。
Photo: Rika Matsukawa
FC Machida Zelvia's Souma Yuki: "Don't be afraid of challenges, enjoy the differences" - Moving forward with determination
FC Machida Zelvia's Yuki Souma: "The doubts and suffering are all for the sake of moving forward"
FC Machida Zelvia's "Soma Yuki" "If the ball goes to this player, something will happen" - The belief of this unorthodox dribbler

Ayumi Kaihori: "Women's soccer is a place where everyone can be the protagonist" - A place where everyone can get involved freely. This is what the WE League is aiming for now.

Beyond the world's best. Ayumi Kaihori talks about passing on the baton of Japanese women's soccer
