「這い上がる覚悟」──“谷晃生”、逆境を越えた守護神の決断
湘南、ガンバ大阪、そして海外挑戦。順調に見えたキャリアの中で、ベルギーで味わった挫折。「思い通りにいかない」経験を経て、日本での再スタートを決意した谷晃生。移籍先に選んだのは、J1初挑戦のFC町田ゼルビア。そして彼は、チームとともに大きな飛躍を遂げた。リーグ最少失点を記録し、町田の快進撃を支えた守護神が語る「逆境を乗り越えるメンタル」と「勝てるチームの条件」とは。※トップ画像撮影/松川李香(ヒゲ企画)

「もう一度ゼロから」──FC町田ゼルビアでの挑戦
――2024年にFC町田ゼルビアへ期限付き移籍を決断されました。当時の心境を教えてください。

「もっと成長したい」という気持ちがすごく強かったですね。
ガンバ大阪に移籍したときは自信を持っていましたが、ポジション争いがあり、自分のパフォーマンスにも納得できていませんでした。チームの結果も思うようについてこず、「このままでいいのか?」と考えるようになりました。
そんな中で海外挑戦を決め、ベルギーのクラブに移籍しましたが、半年間なかなかうまくいかない時間を過ごしました。試合に絡めず、思ったような結果を出せなくて。「もう一度ゼロからスタートしよう」と思い、日本に戻る決断をしました。
ちょうどそのタイミングで町田からオファーをいただいたんです。そして、決め手になったのは黒田監督と直接話せたこと。知人を通じてお話しする機会があり、監督の言葉に強く共感しました。「J1初挑戦の町田で、自分ももう一度挑戦したい」と思い、移籍を決意しました。
正直、最初は残留争いを覚悟していましたが、実際には想像を超えるシーズンになりました。
――結果的に、J1初年度でリーグ最少失点を記録するなど、想像以上の活躍をされましたね。どのように感じていますか?
正直、自分にとっても予想していなかったシーズンでした。もちろん、いい環境でプレーしたい気持ちはありましたが、ここまでの結果を残せるとは思っていなかったです。
僕自身も新しいチームにスムーズにフィットできましたし、メンタル的にもすごくいい状態でした。「失うものは何もない」「もう一度這い上がろう」という意識が、チームの戦う姿勢とすごく合っていたと思います。
――メンタル面がパフォーマンスに大きく影響したと?

そうですね。やっぱり、アスリートにとってメンタルはすごく重要です。よく「メンタルが強い」と言われますが、それは人によって違うし、常に強いわけではないんです。
体のコンディションはトレーニングである程度コントロールできますが、メンタルの変化は目に見えない。だからこそ、経験値が大事だと思っています。その点で、昨シーズンはすごくフレッシュな気持ちで挑めたのが良かったですね。
「言葉が通じなくても伝わるもの」──海外で気づいた“存在感”の重要性
――そう考えると、海外挑戦の経験もメンタル面に影響を与えたのでしょうか?
はい、間違いなく影響しました。
ベルギーでは、思い通りにいかないことの連続で、本当にタフな時間を過ごしました。プレー面では言語の壁はあまり関係ないですが、それ以外の部分で大変なことが多かったですね。環境が変わると、サッカー以外のことでストレスを感じることもありますし、「もっとタフにならなきゃいけない」と痛感しました。
――プレー面では、海外を経験して「強化しなければ」と思った部分はありますか?
「どうやって存在感を示すか」という部分ですね。
日本では、同じ言語で細かくコミュニケーションを取れますが、海外ではそうはいきません。特にGKはディフェンスラインとの意思疎通がすごく大事なので、言葉が通じなくても、自分のプレーで証明しなければいけないと感じました。
――「存在感を示す」というのは、大きなテーマですね。それを実際にどう意識しましたか?
存在感って、自分で意識して出せるものではなくて、周りが評価するものだと思うんです。だからこそ、日々の取り組みや姿勢がすごく大切になります。
特に苦しいとき、味方の選手が「後ろに谷がいるから大丈夫」と信頼できるような振る舞いやプレーをすること。それが、最終的に「存在感」につながるのかなと。
また、GKとして「ゴールを絶対に守る」という気持ちをプレーで表現できるかどうか。それが結果につながるし、チームメイトの安心感にもつながると思います。
「勝っても浮かれない、負けても崩れない」──町田の強さを支える環境とは?
――昨季の町田は、J1初年度にもかかわらず驚くほど安定した戦いを見せました。その要因は何だと感じていますか?
やっぱり、黒田監督の戦術やチーム作りの影響が大きいです。
試合に向けた準備はもちろん、勝った後の練習の雰囲気作りまで、すごく計算されていました。しかも、それが「やらされている」感じではなく、自然と良い雰囲気になっていくんです。
満足する環境がないというか、常に「崖っぷち」にいる感覚がありました。連勝していてもプレッシャーがあり、「もっとやらなきゃ」という気持ちが常にありましたね。そうやって、勝ち続けながらもさらに高いレベルを求める姿勢が、チームに浸透していたと思います。
だからこそ、勝っても浮かれないし、負けても立ち直れる。そういう環境があったからこそ、シーズンを通して安定した戦いができたのかなと思います。
――谷選手はJリーグや海外でさまざまなクラブを経験されていますが、町田のようなチーム作りは珍しいのでしょうか?
そうですね。町田には、唯一無二のスタイルがあると思います。
高校サッカーからいきなり入ってきた黒田監督がJ2優勝を経験し、J1でも優勝争いできるようなチームになるのは、普通ではありえません。でも、それを可能にしているのが町田のチーム作り。
もちろん、選手のレベルが高いこともありますが、それ以上に「勝ちにこだわる姿勢」が他のチームよりも強いんです。その意識がチーム全体に浸透しているからこそ、この結果につながっているのだと思います。
▼谷選手を応援しにスタジアムに行こう!
【試合情報】
日程・4月6日(日)14:00キックオフ
対戦・川崎フロンターレ
場所・町田GIONスタジアム
チケットはこちら(https://www.jleague-ticket.jp/club/mz/)
谷晃生(たに・こうせい)
2000年11月22日生まれ、大阪府出身。ガンバ大阪育成組織から高校3年でトップチームのメンバーとして出場。2020年期限付き移籍した湘南ベルマーレでJ1デビューを果たす。2023年ガンバ大阪からベルギーF C VデンデルE Hへ移籍、2024年からFC町田ゼルビアにてプレーしリーグ最少失点に貢献。2025年から完全移籍。2021年の東京五輪ではフル出場、FIFAワールドカップカタール2022アジア最終予選メンバーにも選出されている。
Photo: Rika Matsukawa
FC Machida Zelvia's Souma Yuki: "Don't be afraid of challenges, enjoy the differences" - Moving forward with determination
FC Machida Zelvia's Yuki Souma: "The doubts and suffering are all for the sake of moving forward"
FC Machida Zelvia's "Soma Yuki" "If the ball goes to this player, something will happen" - The belief of this unorthodox dribbler

Ayumi Kaihori: "Women's soccer is a place where everyone can be the protagonist" - A place where everyone can get involved freely. This is what the WE League is aiming for now.

Beyond the world's best. Ayumi Kaihori talks about passing on the baton of Japanese women's soccer
