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大谷翔平がサヨナラ好機で2打席連続登場?MLBの新ルール案「ゴールデン・アットバット」が呼んだ議論と与える影響とは

メジャーリーグでは近年、新ルールの採用を積極的に進めており、今後の野球を変えていく新たな可能性として注目を集めている。投手と打者に設けられた「ピッチクロック」の導入や守備シフトの制限、投手のワンポイント起用禁止などが実施されてきたなか、新たにアメリカで採用の有無が取りざたされているのが「ゴールデン・アットバット」。昨年MLBの新ルール候補として急浮上した制度は野球をどのように変える可能性があるのか。※トップ画像:出典/Getty Images

Icon 30716468 1048529728619366 8600243217885036544 nYoshitaka Imoto | 2025/01/10

強打者揃えるチームに優位性

ここ数年新ルールの採用が進むMLBルールの代表格に挙げられるのが「ピッチクロック」。投手は走者なしの場合15秒以内、走者ありの場合18秒以内に投球動作を始めなければならず、打者も制限時間の8秒以内までに準備を進めなければいけない。このルールは投手への負担増が指摘される一方で、2022年から44分の短縮に成功するなどスピードアップには一定の効果をもたらしてきた。

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そんなルールに続くものとして、昨シーズンが終了した12月上旬に、さらなる改革案として構想が明かされたのが「ゴールデン・アットバット」。チームの好きな打者を試合中の好きな場面で打順に関係なく打席に立たせることが可能になるもので、終盤の7回以降や9回負けているチーム、または同点のチームのみが現状このルールを使える状況として挙げられた。MLBのロブ・マンフレッドコミッショナーの話として米複数のメディアが報じると、各方面から賛否両論が巻き起こった。

構想段階のアイデアだが、この新ルールが採用されることのメリットとして攻撃的なチームがより積極的な選手起用で得点増につながる点が挙げられる。2024年シーズン世界一に輝いたドジャースは大谷翔平投手、ムーキー・ベッツ内野手、フレディ・フリーマン内野手が強力な上位打線を形成したが、チームが終盤チャンスの場面や劣勢の状況で大谷、ベッツといった強打者を“ジョーカー”として再起用できることは、これまでの野球の常識を覆す新たな可能性を感じさせる。

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フレディ・フリーマン選手(出典/MLB Photos via Getty Images)

大谷は2024年シーズンに159試合に出場して打率.310、54本塁打、130打点を記録して、ホームランと打点の二冠を獲得した。731打席に立った大谷に「ゴールデン・アットバット」を用いる場合、単純計算でシーズンの打席は890打席(159打席追加)まで伸びる。例えば3点ビハインドの9回2死満塁でホームランが欲しい場面や、チャンスで回った9番打者に大谷を起用することで2打席連続大谷が打席に立つこともあり得る。大谷やヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手など、スター選手の出場数が増えることはプラスに作用する可能性がある。

CY賞7度のレジェンド投手が私見

一方で、野球というスポーツが保ってきた伝統やバランスが崩れる可能性も指摘される。データが重視され、好打者を上位に置くことが定着した今のメジャーリーグにおいては、1番から9番までの打順が持つ意味がさらに薄らぎ、野球の本質が失われるという意見もある。スター選手が多くの陽の目を浴びる可能性を持つ一方で、代打というこれまでの野球において小さくない役割を果たしてきた職人が姿を消すことになるかもしれない。

また、サイ・ヤング賞7度のレジェンド、ロジャー・クレメンス氏は自身のX(旧ツイッター)で、「仮説に基づいた話だが……無死満塁で大谷を打席に迎える。彼から三振を奪う。そして彼ら(ドジャース)はこのルールを使って再び大谷を打席に残し、また大谷と勝負をしなければならないのか?」と私見を述べて投手への負担増を主張しており、投手のなかでも終盤を任されるリリーフへの影響が大きな懸念として挙げられている。

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ロジャー・クレメンス氏(出典/Boston Herald via Getty Images)

パドレスでのルーキーイヤーに奮闘した松井裕樹投手は、自身の成績に直接跳ね返る可能性がある。2024年に松井は64試合に登板し、4勝2敗、防御率3.73の成績を残したが、同じナ・リーグ西地区であるドジャースの大谷とは5打数3安打3二塁打で打率は「.600」と打ち込まれた。終盤に「ゴールデン・アットバット」で強打者との直接対決が増えることは松井のようなリリーフ投手にとっては悩みの種となる恐れがある。

コミッショナー側は慎重な姿勢

野球の概念を大きく変えていく可能性がある「ゴールデン・アットバット」だが、マンフレッドコミッショナーは賛否両論が巻き起こったこのルール案について、「実際に採用されるまでは長い道を要することになる」とコメント。即採用には繋がらないと現段階でのスタンスを明かしており、オーナー会議では球界をより発展させていくためのひとつのアイデアとして「ゴールデン・アットバット」が挙がったに過ぎないとしている。

近年ルール変更が進むメジャーリーグにおいて、大胆な改革案として2024年シーズン後に議論に挙がった「ゴールデン・アットバット」。ニュースが報じられた直後に各方面から反響が寄せられたなか、MLB側は現時点での採用には慎重な姿勢を見せている。はたして、将来的に改正に向けた動きが起こり、新たなルール実現はあるのだろうか。