松田宣浩、最終打席で見せた“熱男魂”。ドリームマッチ初安打、塁上で拳突き上げ“歓喜の雄叫び”
引退してもなお、その“お祭り男ぶり”は健在だった。ソフトバンクや巨人で活躍し、昨シーズン限りでユニホームを脱いだ松田宣浩が8月5日、東京ドームで行われたプロ野球のレジェンドが集う年に一度の祭典『サントリードリームマッチ2024』に初出場。ホームランを打った際に右拳を振り上げる“熱男ポーズ”でファンを沸かせてきた男が、“夢の球宴”でも現役時代と変わらぬパフォーマンスを披露し、この日来場した約4万人の観客とともに試合を盛り上げた。※トップ画像撮影/白鳥純一
俳優・大泉洋(右奥)の始球式で高橋由伸(中央)とともに打席に立つ松田(左奥)(筆者撮影)
試合前から“絶好調宣言”!
今年で28回目の開催となったサントリードリームマッチ。輝かしい歴史を築いてきたレジェンドたちが一堂に集うなか、10連勝を狙うザ・プレミアム・モルツ球団は日本ハム、巨人、中日で活躍し、“ガッツ”の愛称で親しまれた小笠原道大を初招集した。
対するドリーム・ヒーローズも、10連敗を阻止するべく大型補強を敢行。阪神、オリックスで活躍した能見篤史、中日で井端弘和との“アライバ”コンビで鉄壁の二遊間を形成した荒木雅博、楽天の中心選手として長らくチームを牽引してきた銀次。さらに中日、阪神、メジャーリーグで日米通算2450安打を放った福留孝介、そして“熱男”こと松田宣浩を加えた5人が新たなメンバーとして加わった。
試合前にインタビューに応じる松田(撮影/白鳥純一)
スタメン発表では「1番・三塁」とアナウンスされ、チームに勢いをつけるチャンスメークの役割を任された松田。試合前には「引退をしてから1年目で、こうやってサントリードリームマッチに出させていただけて嬉しく思いますし、先輩方がたくさんおられるので、若く元気に頑張りたい」と意気込みを語った。
コンディションについては、「この前『日韓ドリームプレーヤーズゲーム』(7月22日、エスコンフィールド北海道)の試合に出たので絶好調ですよ!もう“絶好調宣言”です」と力強くアピール。なお、その日韓プロ野球OB戦ではスタメン出場で4打席に立ち、2安打2死球と全打席で出塁。日本の逆転勝利(10−6)に貢献した。
「日韓対決でもみなさんの期待というか、すごく『わーっ!』って言ってくれたので、今日もね、東京ドームでそういう歓声があると思うので、その一員になれて嬉しいです」
この日は“新人”として参戦する松田。サントリードリームマッチの印象を聞くと、「本当にプロ野球で頑張ってこられた方々の試合。皆さんもう、僕がちっちゃい頃から見てきた人ばかりなので、緊張しますね。皆さんヒーローなんでね。この場にいられて嬉しいです」と感慨深げだった。
気になるのは“熱男ポーズ”を出すタイミングだが、松田は「いやなんでも、なんでも“熱男”しますよ。あつおー!!」とその場で叫びながら右拳を突き上げた。記者陣は思わず大爆笑。試合前から取材エリアまで盛り上げてしまうその明るさは、引退を発表してから約10ヶ月が経過しても、まったく変わることはない。そのまま試合でも、球界屈指のムードメーカーとして会場を盛り上げていく。
無安打続くも「らしさ」全開!“熱男ポーズ”や“ケンケン打法”披露
先発マウンドに上がる工藤公康(筆者撮影)
試合が始まると、NPB通算224勝を誇る工藤公康が、ザ・プレミアム・モルツの先発としてマウンドに上がった。投球フォームは現役時代とほとんど変わらず、61歳とは思えないほどの球の速さに、客席からは驚きの声が沸き起こる。投球練習から、バッテリーを組む元ヤクルト・古田敦也のミットを何度も響かせていた
松田は試合前から工藤との対戦を熱望しており、「ホークス時代は(工藤が)監督だったので、勝負してみたいですね。インサイド寄りの球を投げてくれると思うので、そこをパーンとね、ゴロを打たないように、打球を上げたい」と狙い球も明かしていた。
かつての恩師との対決に挑む松田(撮影/井上尚子)
しかし、その狙いを悟ったかのように、バッテリーはアウトコース中心に配球を組み立てていく。松田はカウント2-2と追い込まれると、最後は高めのボールを打ちにいったがレフトフライに打ち取られた。
“夢の球宴”での初打席初安打とはならなかったが、その後の2番・福留、3番・アレックス・ラミレス(元ヤクルト、巨人、DeNA)から2者連続ホームランが飛び出すなど、初回に一挙3得点。工藤を打ち崩し、2013以来の勝利に向けて好スタートを切った。
内川のファウルフライを捕球する松田(筆者撮影)
1回裏には、ソフトバンクや横浜などで活躍した内川聖一の三塁側ファウルゾーンへ打ち上げた飛球を全速力で追いかけ、見事にキャッチする場面も。三塁の守備についた際は、満員の東京ドームでも、客席に届くぐらいの大きな声でピッチャーを鼓舞するシーンが何度も見られた。球団史上初の3年連続日本一(2017〜19年)を成し遂げた際の“強いホークス”の雰囲気を作ったのは、間違いなく“熱男”の声掛けも大きな要因だったに違いない。
6回表のマウンドに上がる攝津正(筆者撮影)
2打席目は、元中日で50歳まで現役を続けた山本昌と対戦してライトフライ、続く3打席目は元横浜のエース左腕・野村弘樹の3球目を捉えるも、この回センターの守備についていた元広島・天谷宗一郎のファインプレーに阻まれヒットならず。ベンチに戻る際には頭を抱える場面もあった。
チームも3-3と同点に追いつかれ、迎えた6回表。マウンドに上がったのは、元ソフトバンクの攝津正。沢村賞と最優秀中継ぎ投手の両タイトルを獲得した唯一の選手だ。
打席前に“熱男ポーズ”をする松田(筆者撮影)
ここまで無安打も、打席に入る前に場内に流れる“熱男コール”で、観客やチームに元気を注入する松田。元ソフトバンク同士、ともにチームの黄金期を支えたエースと主砲の対決に注目が集まった。
空振りした後に“ケンケン”する松田(筆者撮影)
摂津は初球から強気のストレート勝負。それに応えるように、松田も豪快なフルスイングを見せる。渾身の一振りも空振りとなったが、その際に右足が2歩、3歩と“ケンケン”する形になり、現役時代の代名詞だった「ケンケン打法」が炸裂した。その瞬間、会場からは待ってましたと言わんばかりの笑いと拍手が巻き起こった。
松田曰く、この“ケンケン”が出た時は、タイミングが合っていたり、フォームのバランスがいい証拠だという。しかし、カウント1-2と追い込まれてからの4球目、内角の変化球を打ち上げキャッチャーフライに倒れ、初安打はお預けとなった。
最終打席で執念の初安打。拳突き上げ渾身の「熱男!」
9回表のマウンドに上る岩瀬仁紀(撮影/井上尚子)
7回表には元巨人の上原浩治と対戦するも、ライトフライに打ち取られた松田。チームとしても7回裏に勝ち越しを許し、3-4と1点ビハインドで9回表を迎えた。マウンドには、NPB最多の1002試合登板、NPBトップの通算407セーブを記録している元中日の岩瀬仁紀が上がる。
現役時代に代名詞とした“伝家の宝刀”のスライダーを中心に、ラミレス、山﨑武司(元中日、オリックス、楽天)を連続で打ち取り2アウト。後がなくなったドリーム・ヒーローズは、元ロッテで第1回WBCでは日本代表の“扇の要”を務めた里崎智也がレフト前ヒットで粘りを見せる。
9回表、最後の打席に立つ松田(筆者撮影)
続いて打席に入ったのは、この日5打数無安打といまだヒットのない松田。ランナーが出塁し、恒例となった“熱男コール”も飛び出したことで、球場はますますヒートアップしていく。会場の熱気が高まるなか、岩瀬は初球から高めにストレートを放り、松田のバットは空を切る。一球一球の行方にスタンドは沸き、公式戦さながらの盛り上がりを見せていた。
レフトへの打球の行方を見守る松田(撮影/井上尚子)
そして、カウント1-2からの4球目、甘く入ったストレートを弾き返し、鋭い当たりを放った松田。その打球はレフト前に落ち、6打席目にしてサントリードリームマッチ初安打が飛び出した。
一塁上で“熱男ポーズ”をする松田(中央)(筆者撮影)
ゆっくりと一塁に到達すると、喜びを爆発させるように渾身の“熱男”パフォーマンスを披露。それに呼応するように、観客も右拳を天に向かって突き上げた。まさに会場が一体となった瞬間だった。
2アウトからランナー1、2塁となり、土壇場からの逆転劇も見えてきたドリーム・ヒーローズ。しかし、チャンスの場面で打席に入ったG.G.佐藤(元西武、ロッテ)が、強い打球を放つもショート正面。そのまま一塁へとボールが送られ、試合終了。惜しくもあと1点届かず、ザ・プレミアム・モルツの連勝を止めることは叶わなかった。
それでも、松田の一挙手一投足に東京ドームは沸き、最後まで熱気が冷めることはなかった。らしさ全開の全力プレーは、ファンに感動や興奮をもたらした。来年も“熱男魂”全開で、“夢の球宴”を盛り上げてほしい。