Reasons why Yuka Kurosaki chose American college soccer [Part 2]
女子サッカー界における世界最高峰の舞台、アメリカ。そのアメリカの大学リーグに所属するチームに、アメリカでプロサッカー選手を目指す日本人女性、黒崎優香(21)。早くから才能を開花させた彼女がなぜ、日本の大学や、なでしこリーグでプレーすることを選択せず、アメリカの大学でのプレーを選択したのだろうか。前編では、アメリカの学生アスリートがどのような生活をしているのかを中心に話を聞いた。後編では、2019シーズンからオクラホマ大学に移籍する彼女に、アメリカの大学スポーツの環境を伺いながら、日米の違いに言及していく。
Taisuke Segawa
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2019/01/17
日本の若者がアメリカでプロを目指す理由
ここからは、女子サッカー界の環境面の話をさせてください。今、アメリカでプロを目指していますよね?
黒崎:はい、でも、アメリカのNWSL(アメリカ女子サッカーのプロリーグ)ってドラフト制度なんですよね。私はインターナショナル(外国人)なので、外国人枠の問題があります。NWSLも、Jリーグと同じで、外国人枠が5枠って決められているので、厳しいんですよね。だから、まずは大学サッカーでインパクトを残して、あとはタイミング次第。普通は、すでに5枠って大抵のチームは埋まっているんですよね。日本人で言えば、川澄さんや、宇津木さん、永里さんらがいますし、オーストラリアなどの強豪国からも外国人枠の選手はたくさん来ているので。その枠が空くかどうかは、本当にタイミング次第なんです。
日本の女子サッカー界では、INAC神戸だけが唯一プロチームですが、アメリカの女子サッカーはみんなプロ契約でしたっけ?
黒崎:はい、みんなプロ契約ですね。収入も悪くはないと思います。平均でも5,000人以上お客さんが入りますし、スタジアムも女子チームで所有しています。もちろん、MSL(アメリカ男子サッカーのプロリーグ)の方がお客さんは入りますが、男子より女子の方が強いっていうのも認識されているので、注目度は日本とは比べ物にならないと思います。
女子サッカーだとドイツやフランスなんかも強いと思いますが、アメリカとはやっぱり、環境が違うよね?
黒崎:ドイツはブンデスリーガの女子があるんですけど、そんなに収入は良くないと聞いています。例えばフランクフルトとか、有名なクラブになれば別かもしれませんけど、1部でも下位チームは厳しいのかもしれません。レベル的にはフランスが一番かもしれません。収入もいい方だと思うんですけど。アメリカ人の女子選手は、フランスに行く選手も多いですし。
NCAAは移籍もできる環境
もう2シーズンが過ぎて、コミュニケーション面のストレスは無くなりましたか?
黒崎:私の場合は、あまりコミュニケーション面でのストレスがなかったんですよね。一番最初にアメリカに行った時も、私は人に恵まれていて。私をリクルーティングしてくれたコーチとか、本当にすごくいい方で、いつも気にかけてくれていました。その方の奥さんが日本語を話せる方だったので、ずっとヘルプしてくれて。しかも、ケンタッキー州って、結構日系企業が多いんです。ロスとかに比べれば少ないですが、他の田舎の州に比べると日本人も多い方で、日本食のレストランやスーパーもありますし、そういうところでサッカーをしているっていうだけで、地域のおじさんたちに、一緒にご飯につれて行ってくれたり、応援に来てくれたりして。もちろん、学校で勉強がわからないとか、苦労はありましたけど、それ以外で生活面でストレスになることはあまりなかったんですよ。
※昨シーズンまでケンタッキー大学でプレーした黒崎優香。2019年シーズンからはオクラホマ大学に移籍することが決まっている。
でも、移籍しちゃうんですよね?そんな良い環境なのに、移籍をする理由は?
黒崎:自分をリクリートしてくれたコーチがシーズン前に辞めてしまったんですよね。チームも新しくなって、新しいコーチが来て、全部やり方が変わって。
もっと高いレベルでやりたいってこと?
黒崎:アメリカに行った時は、チームのレベルもあまりわからない状態でケンタッキー大学に行きましたし、それで行ってみたら、やっぱり想像とは違っていて。だから、実は、1年目の時点で移籍も考えていたんですけど、学校の単位の関係もありましたし、1年目は怪我をしてしまい実績が残せなかったというのもあって、もう一年、ケンタッキー大学で過ごすことにしました。2年間を過ごして、実績も少しできたのと、日本人っていうだけで興味を持ってもらえるということもあり、色々オファーをもらったんですけど、自分の中では、サッカーの強いところに行きたかったので。
アメリカの女子サッカー界では、今でも日本人選手の評価は高いですか?
黒崎:監督によるんじゃないかと思います。フィジカル面では、日本人は必要とされないですけど、ポゼッションとかパスサッカーをやりたいチームからのオファーは多かったですね。あとは、お金があるチームからのオファー。私は1月から移籍なので、途中からの移籍になるんですけど。
なるほどね。要は、奨学金が100%払えるだけの予算が余っている大学じゃないと途中で受け入れることができないってことか。
黒崎:はい、そういうことです。お金が残っていないと呼べないので。
じゃあ、今回移籍する大学は、スポーツが盛んな大学ってことですね。
黒崎:そうですね。私が移籍するのはオクラホマ大学なんですけど、フットボールが強いんですよ。全米でもトップ5に入るくらい。だから収入も多いんですよね。もちろん、収入がたくさんあるからスカラシップが残っていたというわけではなく、たまたま女子サッカーで100%出せる枠が空いていたから、オファーを出してくれた感じだと思いますが。
そうですよね。そもそも、NCAAでは、スカラシップの枠数が各競技毎に決まっていますもんね。ただ、やっぱり、ガソリンとなるお金がちゃんと回っているっていうのが、日本とは決定的に違いますね。
黒崎:はい。日本では、スポーツに人が集まらないから、どうしたらお金が集まるか、人が集まるかっていうのをメインで考えていますけど、そんなことはアメリカでは問題にはならないですし。
日本のスポーツ環境について
日本の環境をどうしたらいいか、とか周りの人たちと話ししたりしますか?
黒崎:最近だと、一番そういうことに目を向けているのがベレーザの籾木さんなんですけど、彼女は日本の環境をどうにかしたいって考えていますね。
アスリートもなんとかしたいって、選手が頑張っていますよね。
黒崎:はい。もし私が女子サッカーの環境を変えるなら、中学生の子たちにアメリカというオプションも持たせてあげて、中学・高校の間に地道に英語を勉強してもらうようにしたいですね。大学を決める際に、日本の大学と、アメリカの大学という二つのオプションがあるようになっていけば最高です。
自分なりの解決策を持っていて素晴らしいですね。でも、難しいところなのは、そうやって優秀な人材が流出していけば行くほど、日本のスポーツの価値は上がらないわけで。もちろん、選手としてのキャリアを考えれば、評価される環境、成長できる環境に行くというのは当たりまえのことなんですけどね。
黒崎:確かにそうですね。最近、なでしこも勝てなくなってきているので、みんながどうにかしないといけないって思っているけど、でも、どうしたらいいかわからないっていうのがほとんどで。
アメリカの大学スポーツ界を知る彼女が描く将来像
アメリカのスポーツ界を知ってしまったら、日本の環境にはなかなか戻れなそうですね。
黒崎:そうですね。今のところ、自分の中に、日本に帰ってきたいという気持ちがないので。アメリカでプロになれたら、それと同時に起業したいなと思っています。
最後に、プロになるための課題は?
黒崎:アメリカ人選手と競り合える身体能力を身につけないといけないなと思います。最近はなでしこも勝てなくなってきています。でも世界のトップをいくチームはポゼッションも出来ますし、スピード面も優れている選手が多いので。そこは改善していかなきゃいけないと思いますね。アメリカでは、まだ結果を残せていないので、チームに貢献できるようなプレーをして、インパクトを残したいですね。
今後の活躍に期待しています。ありがとうございました。
黒崎:こちらこそ、どうもありがとうございました。
Interview / text / photo:Yasuyuki Segawa
試合中写真:本人提供