"Tokyo Snow Festival SNOW BANK PAY IT FORWARD x HEROs FESTA 2019" Athletes aiming to contribute to society gather in Yoyogi ~ Seiji Iinuma talks about mutual assistance ~
最近、アスリートの力を社会に役立てていこうとする動きが盛んになってきていることをご存知だろうか。様々な課題が横たわる現代社会において、アスリートの活躍の場は、競技場の中だけではなくなってきているのだ。 それを象徴するようなイベントが11月9日(土)・10日(日)の2日間に渡って行われた。スポーツ、ミュージック、アートを通して若者が献血・骨髄バンクの必要性を知り行動するきっかけを作ろうとする「SNOWBANK」と、アスリートの社会貢献活動を促進する「HEROs」がタッグを組み、「東京雪祭SNOWBANK PAY IT FORWARD×HEROs FESTA2019」が開催されたのである。今回、キングギアでは、このイベントの中でも、興味深かったセッションについて、4回にわたって連載する。第1回目は、ライフセーバー・飯沼誠司氏によるトークセッション、そして「いのちの教室」の様子をお伝えする。
Taisuke Segawa
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2019/11/11
−−飯沼さんが普段行なっている活動内容を教えてください。
(飯沼)山にいる方はあまり聞いた事がないかもしれませんが、僕はずっとライフセービングといって、海やプールで、水辺の事故を防ぐ活動をしています。大学生から始めたので、すでに25年もの間、この活動しています。特に夏のシーズンは、毎日のように現場に立って、人命救助一筋に生きています。また、人命救助におけるトレーニングの一環として、ライフセービングの競技も続けています。例えば、砂浜で競い合って一本の旗を取る「ビーチフラッグス」や、トライアスロンの原型になっている「アイアンマンレース」というのは、ライフセービングのスポーツ競技なんですね。さらに、2015年には、アスリート・セーブ・ジャパンという団体を作りました。私たちライフセーバーだけが人の命を救うのではなくて、皆がお互いに助け合える社会を作りたいという目的で設立し、現在は、80人ほどのアスリートが登録してくださっています。この団体では、企業や学校に訪問して、AEDの使い方や心臓マッサージのやり方を、アスリート自らが伝えるという活動をしています。
−−アスリート自らがみなさんに伝えるという機会は、なかなかない事ですよね。
(飯沼)そうですね。僕も小さい頃に、競泳のオリンピック選手に一日だけ指導をしてもらったことがあるのですが、手が大きかったなとか、かっこよかったなとか、今でも憧れと強い印象を持ち続けています。それくらいアスリートが発信する力は大きいんですよね。この力を社会貢献に使えないかなということで、始めた活動です。
−−そんな飯沼さんの活動が、HEROsの取り組みにもつながっていると思うのですが、今回HEROsとコラボレーションしたのが、「東京雪祭」です。そこで、ご紹介したい方がいらっしゃっています。荒井”daze”善正さんです。Dazeさん、自己紹介をお願いします。
(daze)スノーボーダーの荒井”daze”善正です。僕自身はプロスノーボーダーをしておりまして、dazeという名前で活動させていただいております。僕は2008年に「慢性活動性EBウィルス感染症」という骨髄移植を必要とする病気になりました。僕は、運よく移植を受けられたんですけど、これからの患者さんが、もっと楽に移植を受けられる社会を作ろうと思って、この「SNOWBANK PAY IT FORWARD」という活動を2011年から続けております。
−−今年初めてHEROsとのコラボレーションが実現しましたが、飯沼誠司さんとは普段からお付き合いがあるようですね。
(飯沼)この前、HEROsの活動の一環で、一緒に台風19号の被災地支援に行ってきたのですが、その時に、dazeさんと色々話しさせてもらったんです。僕も水辺で人の命を守っていますが、dazeさんは「山のライフセーバー」だなと思いました。だって、ライフセーバーですよね、dazeさんがやっていることは。自らの体験を生かし、社会を巻き込んで、人の命を救う活動というのは、僕らの活動と変わらないと思っています。
(daze)実は、この前、変な意味じゃないんですけど、飯沼さんって、美しいイメージというか、テレビとかにも出ていらっしゃるので、雲の上の存在だと思っていたんですね。でも、話をさせていただいて、本当にリアルなライフセーバーなんだなと。海の現場で実際に起こっていることを伺って、そう思いました。
(飯沼)お互いに“現場大好き人間”ですよね。現場に命を捧げて。海や山でいろんなことを吸収して、こういうイベントで多くの方にそれを伝えて。ちなみに、僕は365日、海かプールにいますね。いまもすでに海が恋しいです。
(daze)来年は砂浜でも作りましょうか。
(飯沼)ビーチを作りたいですね。今日は雪山が出現していますが、その対局で、ビーチがあると最高かなと。HEROsさん、ぜひよろしくお願いします(笑)。
−−飯沼さんは、ライフセーバーとして色んな活動をされていると思いますが、その中で大事なことってどのようなことでしょうか?
(飯沼)毎年、水難事故は、年間で1700件ほど発生していて、この30年間、ずっと横ばいのままなんですね。事故が減っていない。例えば、子供の習い事では、スイミングがぶっちぎりで1位なんですよ。意外にも、サッカーや野球ではなくて、水泳が1位なんです。それに、学校教育にも水泳が入っていますよね。学校にはプールもあります。でも、水難事故が減らないというのはなぜか。僕は、自分の命を守るという「セルフレスキュー」の観点を伝えきれていないと思うんですね。そのあたりを教育から変えていきたいなという思いがあります。あとは、お互いに助け合う、救い合うという共助の精神をもう少し広げていきたいなと。自分さえ良ければいいという考えではなくてね。 例えば、砂浜にゴミを捨てて帰ってしまうのも同じことです。バーベキューのコンロを持ってワイワイ楽しんで、そのままビーチに置いていく人がたくさんいるんですよ。「そんな人、本当にいるんですか?」って言われるんですけど、本当にいるんですよ。自分だけ良ければいいっていう考え方が根底にあると思うんですが、そうではなくて。 やはり、自分が強くないと人の命も救えないと思うんですよね。そのような心を、僕らの経験をもとに伝えていきたいなと思います。その意味では、dazeさんのやっている「東京雪祭SNOWBANK PAY IT FORWARD」という社会貢献イベントも、共助の輪を広げるという意味合いが強いのかなというふうに感じています。
−−dazeさんも同じようなことを考えているのではないですか?
(daze)いま聞いていて、すごくよくわかりました。僕らの世界でも、ゲレンデでうまく滑っている人が、いきなり雪山に行って事故に巻き込まれたりすることもあるんですが、やはりうまいだけではダメで、事故が起きた時の知識や、助け合いの精神が必要です。何かが起きた時に、助けに行かなきゃと思っても、知識がないと何もできないんですよね。「あそこで大変なことになっているけど、どうしたらいいんだろう」って。まさに海もそうですよね。「あそこで溺れている、じゃあ自分が助けに行こう」って思っても、今度はその人が溺れてしまうようなケースってあると思うんです。
(飯沼)そのケース、多いんですよね。リスクを知らずに、気持ちだけ突っ走ってしまうんです。でも、自然相手ですからね。先日の台風15号や19号での被害もありましたが、我々は、自然相手に生活していますので、常にリスクを知り、知識を持って、まずは自分の身の安全を守りながら、共助の輪を広げることがすごく大事だと思っています。 −−今日集まっている方も、海や山を楽しんでいる方がいるかもしれません。そういった方が、もっと自然を大切にし、自分だけでなくて他人も大切にすることが大事なんでしょうね。
(飯沼)特に都会では、自然に触れ合うことって難しいと思うんですよね。ビルや構造物に囲まれて、自分の精神的に閉ざしてしまうと思うんです。でも、海や山は、そういった精神を解放する力があります、ぜひ皆さんも、自分の心を解放するためにも、自然に触れていただけたらなと思います。
−−代々木公園のこの自然はいいですよね。
(飯沼)都会と自然の架け橋みたいなイベントですよね。
−−この後には「いのちの教室」が予定されていますが、この活動を教えていただけますか?
(飯沼)今、日本は、一人当たりのAED保有率は世界最高なんですね。でも、“AEDを使える人はいますか?”って聞くと、本当に少ないんですよ。自信を持って使えるという人が少ないんですね。自分がAEDを持って準備しているときに、隣で誰かが倒れることなんてないじゃないですか。家族が夜中に倒れるとか、いざという時は、急にやって来るんですね。そのときに、どこにAEDがあるか、その意識を持つだけで、行動が変わります。今日の帰り道に、AEDのある場所を調べてみてください。ここは学校だから夜は使えないなとか、ここは交番だから夜でも使えるなとか、そういった意識を持つだけでも違いますよね。 AEDで一番大切なことは、AEDをなるべく早く持ってきて、使うということなんです。みなさんがよく勘違いするのは、AEDを貼ったら、いきなり「バーン」って電気ショックが走るから危ないんじゃないかって思っている方がいるんです。でも、AEDは、電気ショックが必要じゃない人には、ショックボタンを押しても電気は走らない構造になっているんです。ですので、間違ってもいいから、倒れて反応がない人がいたら、まずはAEDを持ってきてAEDを使うことが大事。ただし、持ってくる間も、倒れている人は心肺停止しているので、心臓マッサージをしないといけません。この技術ってなかなか体験したことないですよね。だから、今日はハートの形をしたクッションを使って、それを体験してもらおうと思います。あのハートのクッションを正しい力で押したら、音が鳴るようになっているんですね。それを使って心臓マッサージの速さと強さをみなさんに体験してもらいたいと思います。
−−dazeさんは心臓マッサージの経験はありますか?
(daze)いや、ないんですよ。AEDも使えないので、今日マスターしたいですね。
−−まずこのイベントがきっかけになるんですよね。dazeさんに知っていただいて、それを周りに伝えると。
(飯沼)どんどん山の世界にも広げて欲しいです。 −−山に行くときにリュックに入れて持っていただいて(笑)。
(daze)そうですね!
(飯沼)実は、スポーツ中の心臓突然死っていうのも結構多いんですよ。例えば、サッカーボールが心臓に当たって、心臓突然死で亡くなったりとか。また、東京マラソンでも、過去に11人も心停止が起きているんですね。でも、近くにいた救護班がAEDを持ってきて、実際に除細動をしていますので、100%救われているんですよ。高齢者だから心臓発作が起きるというわけではなくて、誰でも起きる可能性があるのが心臓発作です。交通事故って年間6000人くらい亡くなっているんですけど、心臓突然死って年間に何人いると思いますか?
(daze)全然わからないな。1000人くらいですか。
(飯沼)年間で7万人を超えているんですよ。マラソン大会で5万人が走っていると、心停止がどこかで起きていると言われていて、大きなマラソン大会では、AEDを背負ったモバイル隊がいたりします。そういった体制を、来年の東京オリンピック・パラリンピックにも繋げて行こうという動きがあったりします。あとは、みなさんの家庭でも、そのような状況を作れるといいですね。誰かが倒れたら慌ててしまうのは仕方がないことです。でも、AEDがどこにあるかを思い出して、実際に使って欲しい。救急車を呼んでから到着するまでの時間は、全国平均で8分かかると言われています。一方で、人間が心停止すると、1分経過するごとに救命率は10%下がると言われているので、救急車が到着する頃には、20%しか救命できないわけです。ですので、待っているだけではダメ。まず駆け寄って、反応を確認し、心臓マッサージをやりながら、AEDの到着を待ち、到着したら除細動をかけるということがすごく大事です。止まった心臓を動かすのはみなさんの手しかないですからね。
−−ちなみに今日は「いのちの教室」の他にも、献血やドナー登録のブースもありますよね。
(飯沼)骨髄バンクの登録って、怖いイメージがありましたが、登録をするだけなら怖いことは何もないって聞いたんですよ。ドナー登録をして、実際に自分が選ばれたら、ものすごく痛くて辛いんじゃないかと質問したら、そんなことはないと知って、今日は登録するつもりで来ました。
(daze)まさにおっしゃっていただいた通りで、ドナー登録自体は、献血のついで2ccだけ血液をいただいて、説明を受ければ簡単に登録できちゃうんです。登録したからって必ず提供しなきゃいけないと言うわけではなくて、マッチした人がいたら連絡が来て、そのときにご自身で判断することができるので、まずは、登録というスタートラインに立って欲しい。そうすると患者さんも自分が必要になったときに、自分にフルマッチした患者さんが100人いるよとか、1000人いるよ、1万人いるよって知ることができれば、それが勇気になります。
(飯沼)怖いとか痛いとか、多少お持ちだと思うんですけど、でも、その恐怖心を我慢したら人の命が救えるんだと思ったら、登録というスタートラインにつくことができると思うんですよね。
(daze)まずはスタートラインに立って欲しいというか、難しく考えて欲しくないです。登録したら提供しなきゃいけないって思ってしまう人がいるんですけど、そんなことはない。だからまずは登録してみて、待っている人がいるのかいないのかを確認して判断して欲しいんですよ。
なお、いのちの教室では、家族連れの方を中心に、多くの方が心臓マッサージを体験していた。特に真剣な表情で飯沼誠司氏の説明を聞くお父さん、お母さんの表情が印象的だった。
飯沼誠司プロフィール
アスリート・セーブ・ジャパン代表/ライフセーバー
3歳の時に水泳を始め、小学校ではジュニアオリンピック、高校ではインターハイに背泳の選手として出場。東海大学進学後、ライフセービングの本場オーストラリアの競技会や実際のレスキューシーンに魅せられ、ライフセービング部に入部。すぐに国内の競技会で頭角をあらわし、ライフセ-ビング競技の花形種目アイアンマンレースをメインに活躍する。大学卒業と同時に、オーストラリアが主催するアイアンマンレースのワールドシリーズ「ワールド・オーシャンマンシリーズ」に日本代表として選出、日本人ライフセ-バーとしては初めてのプロ契約を果たす。その後、全日本選手権アイアンマンレースでは5連覇という偉業を達成。1998年には、全米ライフガード選手権で5位に入賞など海外のレースでも数々の好成績を収める。2006年に有志と共に「館山サーフクラブ」を立ち上げ、現在も水難救助の第一線に立ち、海岸の安全と環境を保全する活動を行っている。2015年には、アスリート・セーブ・ジャパンを設立し、アスリートとともに企業や学校を訪問し、AEDの使い方や心臓マッサージのやり方などをレクチャーしながら、命の大切さを伝える活動を行っている。
荒井”daze”善正プロフィール
SNOWBANK主宰/プロスノーボーダー
1979年東京都生まれ、千葉育ち。16歳の時にスノーボードを初体験、その後プロを目指して国内外で活動。2005年「慢性活動性EBウィルス感染症」を発症し、2008年に骨髄バンクを通じて骨髄移植。現在はプロスノーボーダーとして復帰、また骨髄バンクの普及やドナー登録推進のための活動にも精力的に取り組んでいる。
Interview / text / photo:Yasuyuki Segawa
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(飯沼)山にいる方はあまり聞いた事がないかもしれませんが、僕はずっとライフセービングといって、海やプールで、水辺の事故を防ぐ活動をしています。大学生から始めたので、すでに25年もの間、この活動しています。特に夏のシーズンは、毎日のように現場に立って、人命救助一筋に生きています。また、人命救助におけるトレーニングの一環として、ライフセービングの競技も続けています。例えば、砂浜で競い合って一本の旗を取る「ビーチフラッグス」や、トライアスロンの原型になっている「アイアンマンレース」というのは、ライフセービングのスポーツ競技なんですね。さらに、2015年には、アスリート・セーブ・ジャパンという団体を作りました。私たちライフセーバーだけが人の命を救うのではなくて、皆がお互いに助け合える社会を作りたいという目的で設立し、現在は、80人ほどのアスリートが登録してくださっています。この団体では、企業や学校に訪問して、AEDの使い方や心臓マッサージのやり方を、アスリート自らが伝えるという活動をしています。
−−アスリート自らがみなさんに伝えるという機会は、なかなかない事ですよね。
(飯沼)そうですね。僕も小さい頃に、競泳のオリンピック選手に一日だけ指導をしてもらったことがあるのですが、手が大きかったなとか、かっこよかったなとか、今でも憧れと強い印象を持ち続けています。それくらいアスリートが発信する力は大きいんですよね。この力を社会貢献に使えないかなということで、始めた活動です。
−−そんな飯沼さんの活動が、HEROsの取り組みにもつながっていると思うのですが、今回HEROsとコラボレーションしたのが、「東京雪祭」です。そこで、ご紹介したい方がいらっしゃっています。荒井”daze”善正さんです。Dazeさん、自己紹介をお願いします。
(daze)スノーボーダーの荒井”daze”善正です。僕自身はプロスノーボーダーをしておりまして、dazeという名前で活動させていただいております。僕は2008年に「慢性活動性EBウィルス感染症」という骨髄移植を必要とする病気になりました。僕は、運よく移植を受けられたんですけど、これからの患者さんが、もっと楽に移植を受けられる社会を作ろうと思って、この「SNOWBANK PAY IT FORWARD」という活動を2011年から続けております。
−−今年初めてHEROsとのコラボレーションが実現しましたが、飯沼誠司さんとは普段からお付き合いがあるようですね。
(飯沼)この前、HEROsの活動の一環で、一緒に台風19号の被災地支援に行ってきたのですが、その時に、dazeさんと色々話しさせてもらったんです。僕も水辺で人の命を守っていますが、dazeさんは「山のライフセーバー」だなと思いました。だって、ライフセーバーですよね、dazeさんがやっていることは。自らの体験を生かし、社会を巻き込んで、人の命を救う活動というのは、僕らの活動と変わらないと思っています。
(daze)実は、この前、変な意味じゃないんですけど、飯沼さんって、美しいイメージというか、テレビとかにも出ていらっしゃるので、雲の上の存在だと思っていたんですね。でも、話をさせていただいて、本当にリアルなライフセーバーなんだなと。海の現場で実際に起こっていることを伺って、そう思いました。
(飯沼)お互いに“現場大好き人間”ですよね。現場に命を捧げて。海や山でいろんなことを吸収して、こういうイベントで多くの方にそれを伝えて。ちなみに、僕は365日、海かプールにいますね。いまもすでに海が恋しいです。
(daze)来年は砂浜でも作りましょうか。
(飯沼)ビーチを作りたいですね。今日は雪山が出現していますが、その対局で、ビーチがあると最高かなと。HEROsさん、ぜひよろしくお願いします(笑)。
−−飯沼さんは、ライフセーバーとして色んな活動をされていると思いますが、その中で大事なことってどのようなことでしょうか?
(飯沼)毎年、水難事故は、年間で1700件ほど発生していて、この30年間、ずっと横ばいのままなんですね。事故が減っていない。例えば、子供の習い事では、スイミングがぶっちぎりで1位なんですよ。意外にも、サッカーや野球ではなくて、水泳が1位なんです。それに、学校教育にも水泳が入っていますよね。学校にはプールもあります。でも、水難事故が減らないというのはなぜか。僕は、自分の命を守るという「セルフレスキュー」の観点を伝えきれていないと思うんですね。そのあたりを教育から変えていきたいなという思いがあります。あとは、お互いに助け合う、救い合うという共助の精神をもう少し広げていきたいなと。自分さえ良ければいいという考えではなくてね。 例えば、砂浜にゴミを捨てて帰ってしまうのも同じことです。バーベキューのコンロを持ってワイワイ楽しんで、そのままビーチに置いていく人がたくさんいるんですよ。「そんな人、本当にいるんですか?」って言われるんですけど、本当にいるんですよ。自分だけ良ければいいっていう考え方が根底にあると思うんですが、そうではなくて。 やはり、自分が強くないと人の命も救えないと思うんですよね。そのような心を、僕らの経験をもとに伝えていきたいなと思います。その意味では、dazeさんのやっている「東京雪祭SNOWBANK PAY IT FORWARD」という社会貢献イベントも、共助の輪を広げるという意味合いが強いのかなというふうに感じています。
−−dazeさんも同じようなことを考えているのではないですか?
(daze)いま聞いていて、すごくよくわかりました。僕らの世界でも、ゲレンデでうまく滑っている人が、いきなり雪山に行って事故に巻き込まれたりすることもあるんですが、やはりうまいだけではダメで、事故が起きた時の知識や、助け合いの精神が必要です。何かが起きた時に、助けに行かなきゃと思っても、知識がないと何もできないんですよね。「あそこで大変なことになっているけど、どうしたらいいんだろう」って。まさに海もそうですよね。「あそこで溺れている、じゃあ自分が助けに行こう」って思っても、今度はその人が溺れてしまうようなケースってあると思うんです。
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−−dazeさんは心臓マッサージの経験はありますか?
(daze)いや、ないんですよ。AEDも使えないので、今日マスターしたいですね。
−−まずこのイベントがきっかけになるんですよね。dazeさんに知っていただいて、それを周りに伝えると。
(飯沼)どんどん山の世界にも広げて欲しいです。 −−山に行くときにリュックに入れて持っていただいて(笑)。
(daze)そうですね!
(飯沼)実は、スポーツ中の心臓突然死っていうのも結構多いんですよ。例えば、サッカーボールが心臓に当たって、心臓突然死で亡くなったりとか。また、東京マラソンでも、過去に11人も心停止が起きているんですね。でも、近くにいた救護班がAEDを持ってきて、実際に除細動をしていますので、100%救われているんですよ。高齢者だから心臓発作が起きるというわけではなくて、誰でも起きる可能性があるのが心臓発作です。交通事故って年間6000人くらい亡くなっているんですけど、心臓突然死って年間に何人いると思いますか?
(daze)全然わからないな。1000人くらいですか。
(飯沼)年間で7万人を超えているんですよ。マラソン大会で5万人が走っていると、心停止がどこかで起きていると言われていて、大きなマラソン大会では、AEDを背負ったモバイル隊がいたりします。そういった体制を、来年の東京オリンピック・パラリンピックにも繋げて行こうという動きがあったりします。あとは、みなさんの家庭でも、そのような状況を作れるといいですね。誰かが倒れたら慌ててしまうのは仕方がないことです。でも、AEDがどこにあるかを思い出して、実際に使って欲しい。救急車を呼んでから到着するまでの時間は、全国平均で8分かかると言われています。一方で、人間が心停止すると、1分経過するごとに救命率は10%下がると言われているので、救急車が到着する頃には、20%しか救命できないわけです。ですので、待っているだけではダメ。まず駆け寄って、反応を確認し、心臓マッサージをやりながら、AEDの到着を待ち、到着したら除細動をかけるということがすごく大事です。止まった心臓を動かすのはみなさんの手しかないですからね。
−−ちなみに今日は「いのちの教室」の他にも、献血やドナー登録のブースもありますよね。
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(daze)まさにおっしゃっていただいた通りで、ドナー登録自体は、献血のついで2ccだけ血液をいただいて、説明を受ければ簡単に登録できちゃうんです。登録したからって必ず提供しなきゃいけないと言うわけではなくて、マッチした人がいたら連絡が来て、そのときにご自身で判断することができるので、まずは、登録というスタートラインに立って欲しい。そうすると患者さんも自分が必要になったときに、自分にフルマッチした患者さんが100人いるよとか、1000人いるよ、1万人いるよって知ることができれば、それが勇気になります。
(飯沼)怖いとか痛いとか、多少お持ちだと思うんですけど、でも、その恐怖心を我慢したら人の命が救えるんだと思ったら、登録というスタートラインにつくことができると思うんですよね。
(daze)まずはスタートラインに立って欲しいというか、難しく考えて欲しくないです。登録したら提供しなきゃいけないって思ってしまう人がいるんですけど、そんなことはない。だからまずは登録してみて、待っている人がいるのかいないのかを確認して判断して欲しいんですよ。
なお、いのちの教室では、家族連れの方を中心に、多くの方が心臓マッサージを体験していた。特に真剣な表情で飯沼誠司氏の説明を聞くお父さん、お母さんの表情が印象的だった。
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3歳の時に水泳を始め、小学校ではジュニアオリンピック、高校ではインターハイに背泳の選手として出場。東海大学進学後、ライフセービングの本場オーストラリアの競技会や実際のレスキューシーンに魅せられ、ライフセービング部に入部。すぐに国内の競技会で頭角をあらわし、ライフセ-ビング競技の花形種目アイアンマンレースをメインに活躍する。大学卒業と同時に、オーストラリアが主催するアイアンマンレースのワールドシリーズ「ワールド・オーシャンマンシリーズ」に日本代表として選出、日本人ライフセ-バーとしては初めてのプロ契約を果たす。その後、全日本選手権アイアンマンレースでは5連覇という偉業を達成。1998年には、全米ライフガード選手権で5位に入賞など海外のレースでも数々の好成績を収める。2006年に有志と共に「館山サーフクラブ」を立ち上げ、現在も水難救助の第一線に立ち、海岸の安全と環境を保全する活動を行っている。2015年には、アスリート・セーブ・ジャパンを設立し、アスリートとともに企業や学校を訪問し、AEDの使い方や心臓マッサージのやり方などをレクチャーしながら、命の大切さを伝える活動を行っている。
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