「“weather_any_storms”=嵐を耐え忍ぶ」その直訳で大丈夫?スポーツ通訳から学ぶ、英語の自然な訳し方
たった数分のインタビューの通訳でも、より良い訳にするためにー。日々スポーツ通訳による観戦がもっとリアルに楽しくなる英語講座。 「英語が話せたら大丈夫!簡単なインタビューだから直訳してくれたらいいよ!」今までさまざまな競技に関わってきたが、初めて関わる競技でこういう言葉をかけられるのは、そう、“あるある”だ。「直訳すれば大丈夫」はたして本当にそうなのだろうか?今回はイギリスのプロバスケットボール、SLB準々決勝後のインタビューでのフレーズを元に“訳す力”を向上させるヒントを紹介していく。
まずは直訳してみよう
SLBカップでの準々決勝。シェフィールド vs チェシャーの試合のヘッドコーチのインタビュー。
"I think we built this team to weather any storms. I think we have depth, we have a lot of talent, and they all believe in what they can do. You know, we played one way and we had to adjust quickly to play another way, and I think they did a great job."
このコメントには、どのスポーツでも出てくるであろう表現がたくさん含まれている。まずはこれを直訳してみよう。
「私は、このチームをどんな嵐にも耐えられるように作り上げました。私たちには層の厚さと多くの才能があり、彼ら全員が自分たちにできることを信じています。私たちは一つの方法でプレーしていましたが、すぐに別の方法でプレーするよう調整する必要がありました。そして、彼らは素晴らしい仕事をしたと思います」
といったところだろうか。この場合、直訳でも確かに意味は十分に伝わるだろう。何も問題はない。
より自然な表現にするための“ポイント”は3つ
1. weather any storms
直訳すると「嵐を耐え忍ぶ」。これは「困難を乗り越える」という意味の比喩表現であり、スポーツに限らず、さまざまな場面で使われる。
2. depth
直訳すると「層」や「厚み」。この試合では、普段出場機会の少ない選手が活躍したため、チームの選手層の厚みを指している。
3. adjust
「調整する」「順応する」「適応する」という意味。試合中に相手の戦術に対応して戦い方を変えることはスポーツでは頻繁に起こる。この単語も試合解説やインタビューでよく使われる頻出単語だ。
文脈を踏まえた自然な訳に
「どんな困難も乗り越えられるチームを作り上げてきました。我々の選手の層は厚く、才能にあふれ、自分たちの力を信じています。とあるやり方で取り組みましたが、素早く切り替える必要がありました。それでも、みんな見事に対応してくれました」
この訳であれば、冒頭の直訳文よりわかりやすくスムーズに、試合を終えた選手のコメントとして受け止めれるのではないだろうか?
ただ正直なところ、微々たる変化だとは思う。しかし、この“少しの違い”が非常に大切だ。たった少しでも、クオリティにこだわる姿勢がないと、訳す力はいつまで経っても向上しない。
背景や試合の状況を踏まえると、単なる直訳よりもチームの状況や選手の努力を伝えやすい訳にすることができる。試合後のインタビューはたった数分。そのたった数分のインタビューを、良いクオリティで届けるには、約2時間の試合の流れを把握し、話し手の意図やチームのストーリーを知らなければならないのだ。
通訳というのは、はてしない仕事だ!