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大谷翔平が見せた“二刀流の証明” MLBキャスターとして見届けた伝説への足跡「歴史を創った」(後編)

「野球に詳しすぎるフリーアナ」として各メディアで活躍中の山本萩子(しゅうこ)さん。2019年からNHK・BS『ワースポ×MLB』のキャスターを5年間にわたり務めた山本さんは、エンゼルスに6年間在籍し、今季移籍したドジャースで驚異的な活躍を見せる大谷翔平の苦難からの進化、そして新たな歴史が生まれるまでを見届けてきた。後編では、そんな大谷が19年以降に見せてきた数々の伝説を振り返るとともに、24年印象に残ったほかの日本人選手についても語ってもらった。※トップ画像撮影/長田慶

Icon 30716468 1048529728619366 8600243217885036544 nYoshitaka Imoto | 2024/10/03

2019年、20年を経て21年に見せた本格開花

ーー山本さんにはエンゼルス時代の大谷翔平選手の変化についてもお聞きしたいです。番組に入られたのは2019年くらいでしたか?

大谷選手の2年目ですね。まさに「大谷翔平の二刀流」として私がキャスターをして携わっていた5年間は始まりから全盛期、そして伝説を創っていくという過程を観てきたと思うんです。2019年は怪我の影響もあり二刀流ではなかったですが、それでもサイクル安打を達成したりすごい場面はありました。打者専念という意味では今年と近いかもしれませんが、今年はさらにすごくなっていますね。

とはいえその時もたくさんの伝説を創っていて、その後を知ってしまったから物足りなく感じるかもですがすごかったんですよね。2020年にはコロナもあって開幕が遅れて試合数も少なくなって、という特殊なシーズンであったんですけど、二刀流の序章という感じで投手として復帰しました。

それでもなかなか復帰直後は結果を残すのも難しくて、いろんな苦悩があって、そこから徐々に二刀流を築き上げて。そして21年がある意味完成形の年だったと思うんですが、あの年はMVPも獲りましたし「二刀流ってこういうことだよ」という教科書を作った年でしたよね。

大谷選手のすごいところを5年間密に見てきて思うのは、メジャーリーグというたくさんの名選手がプレーしてきた世界最高峰という環境において、今まで成し遂げていなかったことを新たに創る。歴史を振り返るということはたくさんの選手がしてきているけれど、歴史を創るということはほとんどの選手が多分していない。

それをやっていることが大谷選手のすごいことでそれを見せつけたのが2021年シーズンだったなと思いますし、二刀流というのを証明した1年でした。19年、20年を見てきたからこそ、二刀流という誰も成し遂げていないことをするのはこういうことなんだと思いました。

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出典/Getty Images

ーー大谷選手は二刀流をやるということがまずすごいと思いますが、はたして何本ホームランを打つ選手に成長するんだろう?というのを日本ハム時代から思っていました。メジャーでも20本は打てるかもしれない。30本なら打てるのかな?と思っていたところで40本を超えてきました。2020年から21年にかけて何か変化を感じとったことはありますか?

大谷選手は周りがいろんなストーリーを私も含めて作り上げていますが、多分本人がやっていることは全く変わっていない。去年オールスターを取材に行った時に「日々歴史を創り上げるプレーができる原動力は何ですか?」と聞いた時に「とにかく試合に勝ちたいという気持ちだけです」みたいなことを話していて。

最初は「何を言っているんだろう?」と思うくらい自分のプレーがどうというよりただただ目の前の試合に勝ちたいという気持ちだけという。多分ずっと大谷選手がやっていることはそうだから、変わっているようで変わっていない。それに結果がついてきているだけみたいな感じでしょうか。

(2019年に)サイクル安打を達成した時に最後シングルヒットが残っていて、あと1本打ったらサイクルという全員がわかってる状況で大谷選手が打って打球が少し弱くて、二塁に行こうとしたんです。それを見た時に「大谷翔平はこういう人なんだ」というのを見たというか。サイクル達成とかは関係なくて、ただただ一つでも先の塁へ行って1点でも多く取るということしか考えていないことに衝撃を受けました。「勝ちたい」という想いだけある野球少年みたいな感じです。

ーー大谷選手の「野球少年感」が1番出たシーズンが2022年の気がしていて、投手では規定投球回をクリアして、打者では30本塁打を超えました。このシーズンはいかがでしたか?

確かにそうで、あれも2人分活躍したみたいな年だったじゃないですか?投手として打者として2人分の活躍をして、それを1人でやっているところがすごいと思うんですが、多分本人はチームが勝ちたいと思っている。でもなかなか惜しくて、苦しい低迷期でもあったと思うので、本当に勝ちたいと気持ちを押し出したと感じるようになったのもそれくらいだったと思います。

1個1個のプレーに対して、あまり前面的にガッツポーズをしたり喜んだりとかがそんなにない選手だったと思うんですが、この年くらいから1個1個のプレーに対して気持ちを露わにするような感じで、とにかくただ勝ちたいという印象があった1年なのかなと思います。

「2人分活躍したらほかの選手は敵わない」

ーー大谷選手は来年投手として復帰予定ですが、もう1度ダブル規定を目指すと思いますか?

チームの方針もあって起用法は難しい部分ではあると思うんですけど、この先ドジャースがどういう補強をするかとかにもよるのかな思います。本人はおそらく何勝とか何本とかの数字よりもどちらかというと規定とかちゃんとチームとして目の前の試合に勝つための活躍を投手としても打者としても続けていくという感覚なのかなと思っています。

大谷選手が打率3割を意識していると言ったのも結構びっくりした部分で、「3割を目指す」というのはコンスタントにヒットを打ってアベレージを取りたいということ。自分が何本ホームランを打って得点してもそこじゃないんだろうなと。フォアザチームの感じは変わらないだろうなというのはあります。

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出典/Getty Images

ーー大谷選手の個人的な成績でいうと去年のホームラン王と今年は現段階で「46-47」。こういう数字はいかがですか?

※取材日9/11時点のもの。日本時間9/20のマーリンズ戦で「50-50」を達成

大谷選手は歴史を塗り替えるだけにとどまらず創っていくところが本当にすごいなと思っていて、名だたる名プレーヤーたちも「40-40」ですら(ホセ・)カンセコさんとかバリー・ボンズさんとかアレックス・ロドリゲスさんとか。ああいうプレーヤーじゃないとできなかったことを上回って、想像できるところを軽く超えていってしまうのが大谷選手なので、これじゃ終わらない。「50-50」もいくんじゃないかと現実的に思わせちゃうところが大谷選手だと思います。

ーーそろそろMVPの議論も出てくると思うんですが大谷選手は今年MVPは獲れそうですか?

そうなるんじゃないかと思いつつ、同時に思うのが、大谷選手がいる以上は大谷選手の賞になってしまうのではということ。毎年超トップクラスで2人分活躍し続けたら誰も敵わない。そうなってしまうと「大谷翔平の賞」を作らないと無理なのかなというのが個人的な気持ちです。

あれをやられたら敵わないし、同じ時代にプレーしている選手が幸せでもあり可哀想でもあります。今はリーグが違いますけど(ヤンキースのアーロン・)ジャッジ選手とかは大谷選手と比べてどうか?となっていましたよね。

2024年メジャーで輝いた日本人左腕

ーー今シーズンに大谷選手以外で気になった日本人選手はいますか?

1番といっていいくらい輝いたのは今永昇太選手です。日本人1年目のピッチャーでああいう活躍ができることは後の道にも繋がりますし、今永選手はすごい研究熱心じゃないですか?いろんなことを研究してご自身でポテンシャルを最大限引き出す努力をされていて、メジャーで通用しているのがすごく嬉しくて、たくさん見てきた名だたるバッターたちを抑えているところを見ると本当に鳥肌が立つというか。湧き上がる気持ちがかっこいいなと思います。

ーー去年千賀滉大選手が新人で12勝を挙げて防御率も2点台を達成しました。今永選手もすでに2桁勝利を達成していますが、日本人選手が活躍を続けることで次の選手にも繋がると思いますか?

間違いないですし、道を切り開いていますよね。もちろんそれを遡ると野茂英雄さんから始まっていて、たくさんの結果を残してきた選手がいるからこそ道が拓けている。日本のプロ野球のレベルが上がっているのを体現していて、今は球速や回転数やいろんなデータがあるなかで、その数値で最大限の戦い方をするという意味でも、研究が進んでいるのは証明できているのかなと思います。プロ野球も時代に伴って進化をしていて、メジャーリーグで活躍できているのは個人的にはワクワクします。あとはやっぱりプレーオフでみたいなというのもあります。

ーープレーオフで言うとアストロズに移籍した菊池雄星選手は可能性がありいい投球を続けています。菊地選手はどうですか?

素晴らしいですよね。何かがこう吹っ切れた感じがあったじゃないですか? そこからの菊地投手の構えはアバウトでもいい、ゾーンにどんどん強いボールを投げ込んでいくというスタイルがいい意味で日本選手らしくないというか。ガンガン戦っていく姿勢がすごく男って感じがします。

メジャーリーグの特徴だと思うんですけど、プレーオフって私は高3の体育祭とか文化祭に例えることがあって、「このチームで戦えるのはこの秋だけだ!」みたいな。今だけだから、何としてでも全員でリングを取りに行くぞというのが現れるのがプレーオフだと思うので、だからこそ起用法も連投が続いたりとかクローザーを早く出したりとか目の前の1試合を勝つためにプレーする10月、11月がある。そこでリミットが外れるというかそういうところでプレーする大谷選手しかり、菊地選手がみたいなと思っています。

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撮影/長田慶

山本萩子
1996年10月2日生まれ。神奈川県出身のフリーアナウンサー。日本女子大学人間社会学部心理学科卒業後、日本女子大学家政学部食物学科栄養学部を卒業。大学在学中にスカウトされセント・フォースに所属。2019年にNHK BS ワースポ×MLBのキャスターに就任し、5年間勤める。現在もテレビやラジオで野球番組などに多数出演している他、週刊プレイボーイで連載コラム「山本萩子の6-4-3を待ちわびて」を担当。趣味は野球観戦で、特技は乗馬。日本馬術連盟認定騎乗者資格B級。


Hair&make:Anri Toyomori  (PUENTE.Inc)
Photo:Kei Osada